今年度から映像部門、企画プレゼン部門、デザイン部門(2作品)、アート部門(2作品)、研究パネル部門、外部審査委員賞(今年度はマエキタミヤコ賞)の6つの部門に分かれて選出されることになった卒展プライズ。研究パネル部門は残念ながら該当者なしということで、5つの部門から7作品8人が選ばれオリジナルのトロフィーが贈呈されました。松本学長による表彰式に続いて審査委員による講評が行われ、受賞作品および最終ノミネートまで残った作品がスライドで紹介されたのでした。
ここでは、g*g本紙に登場していない、作品系の受賞作品3点を審査委員の講評も含めてご紹介します。各学科・コース544名の作品・研究の頂上に立った優秀作品ならではの個性や魅力をご実感ください。
※論文系の受賞作品は、内容の性質上掲載しておりません。ご了承願います。
『いとなむ』工芸コース 高橋幸子
イス?それとも動物?そんな不思議なフォルムが印象的な「いとなむ」は、工芸コース・テキスタイル高橋幸子さんの作品。大学でコットンを育てたことをきっかけにそれを紡いで糸にする過程に興味を持ち、卒業制作のテーマとして取り組むことにしました。多くの繊維の中から引っ張ってヨリをかけて糸にする「紡ぐ」という行為は、たくさんある要素の中からひとつを取り出して磨いてカタチにしていく「モノづくり」の過程といっしょ。ひいては人生そのものともオーバーラップする不可思議さを作品にしたかったのです。モコモコのコットン素材からシャープな糸へ、さらに段々形になっていくプロセスをコットンとウールを使って見事に表現しています。
講評:酒井忠康(世田谷美術館館長・本学大学院教授)●この作品の素晴らしさは、素材に対する愛情から自然に展開しているところ。ものづくりの楽しみ方をようやく覚えたばかりといった感じが伝わってきます。形から入って、それに合った素材を決める方法や素材と対話をして、その素材から形を発掘していくという方法など、今後は、さまざまな方法に挑戦してみてほしいと思います。
『終わりを受け入れる都市』建築環境デザイン学科 佐藤香織、矢口麻智
ランドスケープデザインの佐藤香里さんと建築デザインの矢口麻智さんは、それぞれの専攻分野を融合させて卒業制作にしたいと3年生の終わり頃から共同制作をスタートさせました。たどり着いたコンセプトは「終わりを受け入れる都市」。ふたりの出身地である福島県と長野県に実在する長年空き地のままの土地や疲弊した街を取り上げ、開発、発展、活性化とは違った方向での都市計画を提案しています。人が生活しながら少しずつ建物などを減らして自然の姿に戻していくもので、建てない造らない建築という大胆な発想の転換です。建築の否定ともとられかねないため批判も覚悟の2人でしたが、「環境問題が深刻化する中、今後はこうした発想も必要」との反響もあり大変満足な様子でした。
講評:マエキタミヤコ(サステナ代表)●タイトルはかなりショッキングですが、地球への負荷を考えたタイムリーなテーマだと思います。"終わりを受け入れる"といった今まで否定されていたものを肯定するのはすごくパワーもいるし、説得力、説明力も必要です。持続可能な社会の実現に向けて転換期を迎えている今、この作品は「大丈夫、大丈夫」って救ってくれている気がします。
『過去照会』映像計画コース 土屋裕太郎
本当の自分と周囲の人が自分に対して抱いているイメージの間に大きなギャップを感じた土屋裕太郎さんは、自己紹介のための映像作品「過去照会」(17分)を卒業制作として完成させました。映像には、土屋さんの幼なじみや両親たちが次々に登場し、インタビュー形式で土屋さん像を語っている様子が納められています。登場人物の表情がとても自然で、観る人それぞれがインタビュアーになったような気分で観られると高評価。本人の映像を背中だけに留めた演出も功を奏しています。登場人物がとても近しい人々ばかりとはいえ、ここまで自然な表情や言葉を引き出せたのは、土屋さんの配慮や人柄の賜です。この作品を通して「本当の自分は違うんだ」との思いを十分に伝えることができたのではないでしょうか。
講評:宮島達男(現代美術家・本学副学長)●「自分とはどんな人間か」周囲の人々に自分像を語らせているという手法がおもしろいですね。そして、インタビューを受けている人々が実にナチュラルに、気楽に土屋君のことを語っているのがいい。スタッフ何人でやったのかわかりませんが、相手にカメラをぜんぜん意識させていないのがすごいと思いました。特に、お母さんがとてもいい味出していますね。