二酸化排出量を軽減し、環境負荷を抑えた生活を可能にする未来型環境住宅として注目されているエコハウスが、新たに一棟完成しました。〈オルタナハウス蔵王〉と名付けられたこのエコハウスは、高水準の省エネルギー住宅の普及版モデルハウスとして、芸工大の建築・環境デザイン学科が参画。芸工大近くに完成した〈山形エコハウス〉に結集した技術を基にしています。「オルタナハウス蔵王」は、シンプルでコンパクトな設計でコストを抑え汎用性を高めており、太陽光発電や熱交換気システムを搭載し、エネルギー効率を表すC値は0.9㎠/㎡に抑えられています。杉の無垢材を使用したフローリングは、仕上げに天然由来の蜜蝋ワックスを塗布し、内壁にはアレルギーにならないとされる珪藻土を使うなど、自然素材を使った温もりあるワンルームの居住空間になっています。また、植栽を効果的に配置して夏は涼しく冬は暖かい環境を作ることや、岐阜県加子母産ヒノキの間伐材を使用した浴室など、様々なアイディアも数多く投入。オルタナとはalternativeの略語で、オルタナハウスというネーミングには「新しい価値観の家」という意味が込められています。
芸工大がこのプロジェクトに参加したきっかけは、『未来の住宅 カーボンニュートラルハウスの教科書』の著者の一人である、建築・環境デザイン学科の馬場准教授が連載を持つ雑誌『オルタナ』の編集長からの「エコハウスを建てたい」という1本の電話にありました。すぐに施工者であるナガクボハウスの代表との顔合わせが行われ、新たなエコハウスへの技術協力が決まったといいます。構想は半年程で、基本設計には、建築・環境デザイン学科の工藤さん他2、3名の学生が関わっています。「オルタナハウスは、コンパクトな面積を効率的に使っています。北側の水回りや室外機の置き場所、床下断熱で基礎が高くなっている点で苦労しましたが、地元建築事務所であるナガクボハウスの方と一緒に考え作っていくことがきました。」と言う工藤さん。今後の課題は、オルタナハウスを見学した人が生活のイメージを掴みやすくするための、画期的な家具システムの考案だそうです。「環境に配慮した住宅に住む人はまだまだ少数派ですから、自分の生活に環境住宅がフィットするイメージが高まるようにしたいです。」と意欲的。
馬場准教授は、学生が実物の建築プロセスに関わることの貴重さを述べるとともに、「オルタナハウスはあくまでプロトタイプ」であるとして、研究と実践の中で学び、環境住宅のデザインを進化させていきたいという想いを語ってくれました。
また、山形エコハウスのコンサルティングを手がけた建築家で本学教員の森みわさんは、オルタナハウスについて「ローコストの中で様々なアイディアを盛り込んだ、研ぎすまされた環境住宅」であると高く評価しています。森さんは「世界最高水準で作られた山形エコハウスはF1カー、汎用性を高めたオルタナハウスは国産乗用車に例えられますが、どちらか一方だけが重要であるというわけではありません。両方の面からアプローチして社会的意義があるものにしていくことと、市場で存在感を示していくためのチャレンジが必要です。」と語り、環境住宅の高い理想を示しながら、ローコストの環境住宅を普及させることで環境に対しての費用対効果を上げていく重要性を示しました。市場全体の流通量を増やして新たな流通経路を開拓すれば、手が届かないように見えたF1カーが身近な高級車くらいの存在になるといいます。
同様に馬場准教授は、オルタナハウスの外壁材が通常は高価であるフローリング材を使用していることを例にあげ、流通量の多さがコストダウンにつながる重要性を述べました。また、「日本の技術が海外に追いつくことで、もっと安価で気密性の高い住宅を実現することも可能ですね。山形エコハウスで使用した三重窓はドイツ製でコストがかかることから、オルタナハウスでは日本製のものを使用しましたが、国産でさらに優秀なものができればそれに越したことはありません。」と、国内での需要と流通量、技術力の向上が求められていることを明らかにしました。
緑豊かな宮城蔵王、大河原町に建築されたオルタナハウスは、今後は地元建築事務所によって仙台市を中心にプロモーションを展開し、地域に根付いた環境住宅として普及することを目指します。地球環境に対して一定の成果を上げていくために、オルタナハウスに期待される役割は今後ますます大きくなってきていきそうです。