芸工大正面の人工池に姿を表した、白く個性的なオブジェ。『楽楽楽(ららら)〜水と光と風と〜』と名付けられたこの作品は、白く塗った藤づるをひとつに結束することで生命エネルギーとしての存在感を示し、自然が生み出す躍動感のあるフォルムが野外空間でひとつになっています。この作品を制作した大学院2年彫刻コースに通う丹野智子さんは、「学生や芸工大を訪れた方が普段と違う景色に足を留め、思い思いのイマジネーションを膨らませて、藤づると自然のコラボレーションを楽しんでくれれば、と願っています。」と想いを語ってくれました。
丹野さんは多くのお弟子さんがいる華道草月流の師範でもあり、数々の作品を発表しています。50年以上も華道家として活躍していながら、なぜ改めて芸工大で学ぶことを決めたのかを丹野さんに尋ねると「表現の幅を広げたかったんです。」とにこやかに答えてくれました。また、今回作品の場に使った人工池の大きな空間に惹かれ、「ここで何かをしたい!」と思ったことも入学を決めたきっかけだったといいます。丹野さんは、「私の作品はダイナミックなものが多いので、狭い空間では表現するのが難しいです。ギャラリーでの作品展示、ということもしたことはありません。芸工大の人工池は広く、空と山と人工的な建造物がひとつの空間を作り出していますね。今回の作品は、水面に映ったオブジェが光と風によって表情を変える自然空間を利用して、藤づるのリズムある輪郭を活かした立体造形の表現です。この空間を使う許可をいただくことができて、本当に良かったと思っているんです。感謝しています。」と、達成感をにじませながら感謝の言葉を述べました。
植物素材のエネルギーや個々のおもしろさを引き出しながら、美しく再構成し量感を持った表現になっているのが、丹野さんの作品の特徴のひとつにあげられます。そして、その素材のほとんどは古民家解体材、木材木っ端などの廃材です。「草月流の創始者である勅使河原蒼風先生が"作品は足で作る"ということを仰っていて、私も売っている花を買うのではなく、素材は自分の足で探しています。でも、自分ひとりでできることは限られているので、人に助けてもらうことが必要です。」という丹野さんは、取材当日に作業場を訪れた時も「これが私の宝の山なの!」と、学生たちが切り出した木の破片の集積場所を見せてくれました。日頃から、解体業者や農家の人たち、学生とのコミュニケーションを大切にし、常に「これはどう使おうかな、あれはおもしろいかも。」とアンテナを高くしているのだとか。彫刻コースの前田教授は、「丹野さんが来てくれたことで、学生たちも活性化しました。挨拶ができるようになったりね。世代を超えてコミュニケーションしているから、お互いに刺激になっているし。丹野さんの作品はもちろん、丹野さんのお弟子さんたちの作品も普通の生け花とは違う感覚がありますよ。」と、新鮮に感じている様子でした。
「今回の作品『楽楽楽(ららら)〜水と光と風と〜』のオブジェを室内に設置し、照明作家とコラボレーションする企画があるんです。」と真っ直ぐな瞳で嬉しそうに語る丹野さん。その留まるところを知らない創作意欲は、さらなる表現の高みへと向かっています。