「ここでボーリングしたいなあ」。まなび館の長い廊下を見て、そう呟いた荒井良二さん。レンジャーのような、楽しいボーリングのピン作りが始まりました。

日常の中の芸工大

日常の中で心をすまして見つける「山形への入り口」、
〈荒井良二の山形じゃあにぃ2010〉が開催されました。

告知ツールやwebなど宣伝美術全般を担当した、アカオニデザイン代表の小板橋基希さん(左)、webディレクター・デザイナーの後藤ノブさん(中)、プランナー・デザイナーの阿部衣利子さん(右)。ともに芸工大OB。

「ぼくが山形を紹介する展示ではなく、山形の入り口を探す旅なんだと思うよ。これがぼくからいろんな人に広がって みんなの入り口になればと思うけどねー。山形の人も、山形以外の人も。」山形出身の絵本作家・荒井良二さんの、そんな言葉から始まった〈荒井良二の山形じゃあにぃ〉は、9月10日から10月31日まで、山形第一小学校の旧校舎を改装した山形まなび館で開催。今年4月に刊行された作品集『metaめた』の原画展示を出発点に、荒井良二さんが旧校舎の空間に触発されて実現したインスタレーション〈一生一小〉、ライブペインティング〈やまがたオルガン〉、ワークショップ〈しるしのきおく〉など、荒井さんの自由奔放に遊びまわる感性を、同じ場の空気を共有しながら体感できる多くのイベントを企画しました。期間中、会場にはオルガンの音や子どもの声が響き、心がワクワクする色彩の世界と楽しいオブジェが来場者を迎えました。

8mm作品「えくおとさず」がロッテルダム国際映画祭に出品されている新進気鋭の映像作家である、黄木優寿さん。本学卒業後、山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局勤務。「山形じゃあにぃ」の映像はwebでも公開中。

館内のいたる所に設置された小さな黒板に書かれた、荒井さんからの"宿題"は〈黒板モケモケ〉というプロジェクトのひとつ。最新絵本『モケモケ』から生まれたスピンオフ企画で、本展の宣伝美術を手がけた卒業生が中心のデザインオフィス「アカオニデザイン」と、本学坂東慶一ゼミ生によってなされた看板プロジェクトです。アカオニデザイン代表で芸工大OBでもある小板橋基希さんは、荒井さんとの関わりの中で、デザインの"スキマ"の重要性を感じ意識するようになったといいます。当初、荒井さんによる描き下ろしの予定はありませんでしたが、小板橋さんのデザインや企画の中に見いだした"スキマ"に触発された荒井さんが、山形じゃあにぃオリジナルのアイコンや文章を描き下ろしてくれることになったそうです。小板橋さんがデザインしたバッグ型のパンフレットは、中面いっぱいに荒井さんが描いた色彩と文字が踊り、山形ならではのキーワードが散りばめられた、鮮やかで優しい旅のはじまりを予感させるものになっています。

山形まなび館のスタッフとして運営に関わり、現場の安全面の確保と管理、広報活動を担当した芸工大OBの新関俊太郎さんとOGの役野友美さん。三日間で会場を作る、荒井さんのスピードとアイディアには驚いたそう。

小板橋さんは、「山形といえば、芋煮会、ラ・フランス、さくらんぼ。荒井さんの描く絵や言葉には、そういったものを気張りなく受け入れられる、イヤじゃない格好よさがありますよね」と語り、山形の可能性が広がったことを感じています。また、アカオニデザインの後藤ノブさんは「すらすらと描くラフが、自由なのに辻褄が合っていてすごい」、阿部衣利子さんは「緊迫感なく自然に入っていける人間的な空気感がある」と、それぞれ荒井さんと関わって感じた驚きを口にしています。

小さなお子さん連れの来場者も多かった本展。竹ひごで作った大玉を転がして、身体いっぱいに「じゃあにぃ」を楽しみます。

荒井さんの持つ自由な雰囲気、周囲との和んだ空気感、自然に創作に入っていく様子とその作品は、そのまま映像記録にも残されています。撮影を担当したのは、映像作家で芸工大OBの黄木優寿さん。黄木さんは荒井さんの絵から聴こえる音にフィーチャーし、準備段階から展示作品、イベントの全てまで、「山形じゃあにぃ」に漂う空気感を映像化しました。台本を書かない手法は、荒井さんに「似てるね」と受け入れられ、本展に対してより創造的な関わりを持つようになったそうです。「それまで周囲の人と楽しそうに話していた荒井さんが、何かが降りてきたかのように、すっ、と創造に入る瞬間。ぱっ、と描かれる世界を間近で見ることができました」と、興奮を隠し切れない様子で語る黄木さん。記録された映像は、ドキュメンタリー作品として編集し、2011年に開かれる山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されます。

〈荒井良二の山形じゃあにぃ〉は、訪れた多くの人々や関わったスタッフたちの感性を刺激し、日常の中で心をすますように旅をする、創造性溢れる画期的なアートイベントとなりました。今後は、本展の内容を収めたスケッチ集のような公式カタログや、映像作品の上映などで「じゃあにぃ」を楽しむことができる予定です。

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