昨年11月に日本画コースとテキスタイルコースの学生が山形交響楽団200回記念公演の空間演出として制作した「火の鳥」の実績から、アフィニス財団の申し出で「アートプロジェクト 英雄の生涯」が実現しました。「アフィニス夏の音楽祭」を耳だけでなく目でも楽しんでもらおうと、文翔館、県民会館、七日町通りなどで大規模なインスタレーションを展開。その中でも最も注目を集めたのが、音楽祭のメイン会場となった文翔館の前庭に展示された巨大な立体作品「英雄の業績」です。起伏に満ちたフォルムとシルバーの反射シートによる鎧の質感で見事に英雄を表現。周囲の風景を映し出して刻々と表情を変え、英雄の波乱に富んだ生き様を表していました。
その制作にあたったのが、『火の鳥』の経験者を中心とする日本画コースの学生と彫刻専攻の大学院生、総勢15名による立体インスタレーションチーム。アートによる音楽祭への参加を持ちかけられた美術科日本画の長沢教授が、今回は野外展示ということで、彫刻と一緒にできたらもっとおもしろいことができるに違いないと彫刻の吉賀先生に協力を求めたのです。専攻の枠を越えての共同制作はともに初めてとあって、当初は互いに遠慮がちでしたが、ミーティングや実作業を重ねる中でチームワークが育っていったと言います。特に、日本画コースの神津さん、白石さん、財田さん等は、『火の鳥』での経験を活かして積極的にアイデアを出し、より責任感を持って頑張ってくれたメンバー。「大変だったという気持ちよりも、取り組んでいた時間がとても楽しかったので、完成した時はすごく嬉しかったし、感動しました。」と白石さん。
財田さんも「彫刻の人と一緒にやれてよかった。やっていく中でどんどんいいチームになっていった気がします」と満足げ。そして、山田さんや田村さん、関口さんたち彫刻の院生も、当初こそ経験のある日本画コースの学生にやや圧倒されていたものの徐々に本領を発揮。道具や素材がないといった局面でも自分たちで手作りして対処するといった持ち前の現場力を見せつけてくれました。みんなが重宝した道具「マー坊」を開発した山田さんは、「みんなと一緒だったからこんなにカッコイイ作品ができた」と語り、以前から自分の体よりもずっと大きいものを手掛けてみたかったという関口さんも「スケールの大きなプロジェクトに参加できて本当に良かった。互いのいいところを出し合い、補い合い、みんなでクオリティにこだわり続けたことで完成度を高めることができました」と、ともに日本画とのコラボレーションを素晴らしい経験と捉えていました。
以前から自分の体よりもずっと大きいものを手掛けてみたかったという関口さんは、「スケールの大きなプロジェクトに参加できて本当に良かった。互いのいいところを出し合い、補い合い、みんなでクオリティにこだわり続けたことで完成度を高めることができました」と分野を越えたコラボレーションの力を実感したようです。アイデアをまとめたり、模型を作ってイメージを共有したりといった下準備を経て、実作業期間は8月に入ってからのわずか10日間弱。展示される場所が歴史的建造物の前ということで地面に傷を付けてはならない、跡を残してもいけないなど、設置条件がいろいろある上に、観光客や散歩の人、一般の人も普通に通る場所なので安全面も十分に考慮しなければならず、解決しなければならない問題は山積み。でも、その都度、他の先生方にもアドバイスをもらいながら一つ一つ処理していきました。
構造面のことは建築の先生に相談したり、洋画の先生からはキャンバス張りの応用で反射シートをピーンと張るコツを伝授いただいたり、少しずつ作業を進める中で、だれもが凄いものが出来るに違いないとの手応えを感じ始めていました。七日町通りに掲げるフラッグアートを担当したチームが先行してクオリティの高い作品を完成させつつあったこともいい刺激となり、気合いを入れてのラストスパートです。
例年以上の猛暑の中、制作作業が続けられてようやく「英雄の業績」の全貌が明らかに。それまでメンバーが見ていたのはフォルムだけだったり、部分的だったりで、全体の完成型を目にすることができたのは文翔館前に設置を終えた、まさにその瞬間でした。
今回のプロジェクトでキュレーターを務めた和田准教授が、音楽祭でR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」の指揮を担当した飯森範親氏に立体作品の前でインタビュー。「作品制作の前にインタビューが叶わず、この作品が曲のイメージに合っているのか不安だったのですが……」と和田准教授が尋ねると、飯森氏は「私の話で先入観を与えたくなかったので敢えてお会いしませんでした。曲のイメージを良く感じとって作品にしてくれていると思います。」とにこやかにコメント。音楽とアートの共演により、いっそう感動的な音楽祭として人々の心に刻まれたと自負していいのではないでしょうか。