コミュニティとアートの分野で実績のあるゲストを迎えて、和やかに議論が交わされたシンポジウムの様子。

佐藤直樹/1961年東京生まれ。アートディレクター、多摩美術大学造形表現学部デザイン学科准教授。株式会社アジール主宰。主な仕事はCETのプロデューサーとして知られる。

実績ある仕掛け人たちが思い描く
コミュニティとアートのネクストとは。

〈NIPPON ARTNEXT展〉7日目の9月29日、『コミュニティとアート』をテーマとするシンポジウムが開催されました。会場は、芸工大の〈ミサワクラス〉と〈Rコモンズ〉の展示室。シンポジウムは3部構成、馬場正尊×佐藤直樹×中村政人×宮本武典×後藤繁雄という豪華な顔ぶれが、ミサワクラスの展示作品でもあるテーブルを囲んで和やかな時間をギャラリーとともに共有しました。

第1部『CETと東京R不動産』
佐藤直樹×馬場正尊×宮本武典×後藤繁雄

後藤繁雄/1954年大阪生まれ。編集者、クリエイティブディレクター、京都造形芸術大学教授。80年代から数多くの出版物を手掛けるほか、展覧会企画・広告制作など幅広く活躍。

ゲストの佐藤直樹氏は、東京の東側、日本橋や神田などにある空きビルを利用したイベント〈CET(Central East Tokyo)〉のプロデューサー。東京R不動産を運営している馬場氏とは、空き物件の発掘、利用、紹介を通してずっと連携を続けてきた間柄です。そんな二人を中心に、〈CET〉の誕生エピソードや現状と将来、空き物件や空洞化した街の再生にアートが果たす役割などについて話し合われました。2003年にスタートした〈CET〉は、空きビルが連なる街にたまたま出会った佐藤氏らが「そこでしかできないこと」を探して実験的に取り組んだプロジェクト。最初からアートと限定せず、その場所を面白くしてくれるのはデザイナーか?建築家か?それぐらいの柔軟さで臨みました。現在では、新しいギャラリーやカフェなどの進出が目立ち、新たな文化エリアとして定着しつつあります。
こうしたアートによる街の活性化の成功に必要な要素として、佐藤氏は、「地元で本当に困っている人がいて、これまでの延長上の方法では解決できないと感じていること。そして、僕らはあくまでもよそ者であり、中に入りすぎないこと」などとしています。また、馬場氏は「〈CET〉はスポーツ」と表現。「例えばサッカーで自分がピッチに立った時に、自分に何ができるか、あの人と組めば何ができるかを瞬時に判断して表現する楽しさ。街を変えることが目的ではなく、街が変わっていく様子を楽しみたかった」と言います。
〈CET〉の成功に気をよくしてエリアを変えて同じことをしようなどという考えは一切持たない両氏。この事例を見て応用可能な部分があれば他の人がやってくれても良いとの事。それでも、アートに期待されていることは案外大きいと実感している2人だけに、また何か新たなカタチで「スペース×アート」に取り組んでくれるに違いありません。


馬場正尊/1968年佐賀生まれ。東北芸術工科大学建築・環境デザイン学科准教授。博報堂、雑誌「A」編集長を経てOpenA設立。「東京R不動産」運営。CETのディレクターも務める。


宮本武典/1974年奈良生まれ。武蔵野美術大学東北芸術工科大学主任学芸員。海外での滞在研究、原美術館アシスタントを経て現職。著名アーティストの企画展等を多数手掛ける。

第2部『山形プロジェクト』
馬場正尊×宮本武典

芸工大の准教授である馬場氏と主任学芸員である宮本氏が担当した第2部では、芸工大の学生や卒業生たちが取り組んでいるさまざまなプロジェクトに関する紹介や解説が行われました。冒頭、馬場氏は会場のイスとテーブルが〈ミサワクラス〉のメンバーによって作られたもので、プロジェクトの象徴的なツールであることを紹介。また、山形R不動産では、地方都市山形ならではの取り組みが求められていること、小さな地方都市だけにメディアにも取り上げてもらいやすいことなどが紹介されました。さらに、芸工大のプロジェクトは建築とアートなど、多様な学生たちが横断的に関われるため、互いに補完し合えることで可能性が広がり、アーティストとしてのエゴが軽減されるといったメリットがあると分析。〈ひじおりの灯〉や〈じゃぽんデザイン事務所〉の取り組みにも触れ、地域の中に身を置き、地域の人々の声に耳を傾ける姿勢は、これから社会に出て行く上で大きなプラスになるはずとしています。

中村政人/1963年秋田生まれ。アーティスト、東京芸術大学絵画科准教授、「3331Arts Chiyoda」統括ディレクター。東京、秋田、富山など各地で市民参加型のアートプロジェクトに尽力。


第3部『3331 Arts Chiyoda』
中村政人×馬場正尊×宮本武典×後藤繁雄

シンポジウムの締め括りとなる第3部のゲストは、アーティストの中村政人氏。中村氏が統括ディレクターを務めている〈3331 Arts Chiyoda〉が廃校を利活用したプロジェクトということで、宮本氏から同じ廃校を利用した「山形まなび館」の取り組みについての説明が行われました。中村氏はそのほかにも、秋田県大館市の〈ゼロダテ〉、富山県氷見市の〈ヒミング〉など、東京から地方まで、地域での市民参加型アートプロジェクトを多く手掛けています。そんな経験豊富な中村氏に宮本氏はこんな質問を投げかけました。「各地でさまざまなアートイベントが成功していますが、こういった状況はいつ終わるのか、定着するのかという怯えがあります。私が山形で関わっているプロジェクトでも、地元の人からいつまで続けられるのかといった声をよく聞きます。」それに対して中村氏は、「それらプロジェクトに確固たる動機があるかどうかが重要。地元との連携でプロジェクトを創り上げていくプロセスこそが大事」と強調しました。その点、山形のプロジェクトは、地域が必要としてくれていること、学生も先生も山形に関わる意義を求めているということが十分な動機となり、健全な形で根付いていくことが期待できそうです。
東京と地方と考えた場合、それぞれに魅力があって、ある意味、格差が大きなエネルギーになるという見方もできます。「東京と地方をしっかりつないでいくには、両方を知るディレクター同士がコミュニケーションを取って上手にやっていくことが必要なのではないでしょうか」と後藤氏。コミュニティの中にしっかりアートを根付かせるための必然性や方法論など、それぞれの経験から多方面へと話題が広がり有意義な時間が流れました。

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