g*g Vol.26 WINTER 2014
障害とアートを軸に多様な存在を認める社会づくりを目指し、障害のある人の作品を商品デザインに使用することを仲介し仕事につなげているAble Art Company(エイブルアート・カンパニー)。事務局を務める柴崎由美子さんは、芸術学科(現:美術史・文化財保存修復学科/歴史遺産学科)卒業生です。在学中は授業以外のプロジェクトにも多く参加し、芸術に関する見聞を広めるとともに、課外活動のチュートリアルで障害児の造形活動や地域の芸術祭に参加しながら、社会的な意義について考えるようになりました。障害がある人のアートに対する理解を深めていきました。出身地である東北には、障害のある人と社会が創造的な関係性を築いている場所や団体がないと感じた柴崎さんは、卒業後、アートとケアの視点を持ちながら様々な事業を実施している奈良県にある市民団体、財団法人たんぽぽの家に所属。そこで同じ目的を持つ3つのNPOが共同運営するAble Art Company(エイブルアート・カンパニー)を設立し、現在は拠点をNPO法人エイブルアートジャパンに移し、障害のある人と社会、仕事をつなぐ中間支援組織として活動しています。
新しい文化芸術活動の発信拠点として利用されている、アーツ千代田3331(東京都千代田区外神田6丁目11-14)内にある東京事務局では、作品展示や商品販売、ワークショップやセミナーを開催。2013年12月5日から25日の期間中は、ショップ形式の「HUMORA~つながるプレゼント~」を実施し、多くの関心を集めました。ショップに並ぶのは、iPhoneケースやアクセサリーの他、タビオ株式会社とコラボレーションして製品化したソックス、新潟の木材と蒸留水を利用したリネンウォーターなど。企業や地域が持つ技術と素材が、アーティストの感性と結合し魅力的な商品になっています。
「HUMORA」は社会づくりへの参加を促す手段であり、きっかけづくりだと語る柴崎さん。「年齢や性別に関係なく、多くの方が気に入った商品を手にとってくれます。障害のある人の作品だからこその市場もあると思うんです。その良さを活かしながら、チャリティーではなく魅力的な商品として社会に広がっていけばいいですね」。アーティストは毎年公募で選出していて、現在の登録アーティストは10代から70代までの78名。それぞれの個性を最大限にプロモーションし、アート作品をデザインとして使用、時代の空気感を持った商品を生み出しています。柴崎さんは、「障害のある人がアートで活躍することでアイデンティティを形成し、さらに支援者はその活躍がプライドとなります。障害のある人の周囲だけでなく、社会全体が変化していくきっかけになります」と、活動に確かな手応えと意義を感じていました。
東日本大震災以降、改めて東北に目を向け、芸術文化活動を広げるのは今しかないと感じた柴崎さんは、仙台にAble Art Company(エイブルアート・カンパニー)東北現地事務局を設置。映像学科卒業生で山形出身の武田和恵さんをスタッフに迎え、東北を拠点にした活動を始めました。2013年12月15日から17日には、せんだいメディアテークで「Good Job!展─障害のある人たちのARTと社会的なINNOVATION」を開催。南三陸町の福祉作業所のメンバーが、地域の牛乳パックをほぐし、紙すき技術で作ったメッセージカードなどの商品を展示すると共に、障害のある人や支援者の相談の受付けだけでなく、多くの来場者と交流を持ちました。卒業後、地元の福祉施設で10年間勤務したという武田さんは、「私は支援者の立場や気持ちがわかるので、被災地や障害のある人、支援者に対してより近い位置から提案できると思っています。福祉施設は閉鎖的になりがちなので、学生ボランティアなど外部とのつながりは多く持ちたいですね。障害のある方も喜びますし、学生にとってもいい刺激になるのではないでしょうか」と語り、東北で障害のある人と社会が創造的な関係性を築くために、ものづくりの経験がある人の積極的な参加を求めました。「Good Job!展─障害のある人たちのARTと社会的なINNOVATION」は、東京、宮城のほか2014年2月15日から17日には福岡でも開催されます。
エイブルアート・カンパニーURL:http://www.ableartcom.jp/
Good Job!プロジェクトURL:http://goodjobproject.com/