仙台市青葉区の郊外に、青々とした木々に囲まれた一軒のカフェがあります。まるで童話の絵本から飛び出してきたような雰囲気ある佇まい、そして美味しい食事とお茶に心惹かれた人たちが足を運ぶそのカフェの名前は、「ArtGalleryそあとの庭」。ここは、NPO法人 東北の造形作家を支援する会(以下、〈SOAT〉)の活動拠点となっている場所で、1階は作家が手掛けた商品が並ぶカフェ空間、2階は作品を展示販売するギャラリースペースとして活用されています。取り扱うのは、その名の通り、東北にゆかりのある造形作家が手掛けた作品。そこには「発表の場を提供することで東北の芸術文化の向上に寄与したい」という〈SOAT〉の想いが込められています。
スタッフの一人・小川牧さんは、美術科総合美術コースの卒業生。大学時代、〈SOAT〉と一緒に震災復興に向けた取り組みとして、折り鶴プロジェクトに取り組んだことがきっかけで、ここで働くようになりました。折り鶴プロジェクトとは、2012年1月にエスパル仙台にて行われた〈SOAT〉と総合美術コースとの協働アートワークショップ。非営利団体である〈ベゾス・ファミリー・ファンデーション〉を通じて世界各国から届けられた折り鶴を用いて、子どもたちと共に東北の復興を願うオブジェを作成し、小学校などへ寄贈しました。その時の経験を現在の仕事に活かしている小川さん。〈SOAT〉では2011年4月より、全国から届けられた画材を、被災した作家やアートグループ、学校などに届ける「にじいろぱれっと」という支援活動に取り組んでいます。さらに、子どもたちの心のケアと育成のため、仙台市内の児童館や石巻の子育て支援センターなどを訪れ、ワークショップを定期的に開催。「例えばガラスを使ったワークショップの時はガラス作家さんに協力をお願いするなど、その時の内容に合わせて東北の造形作家の皆さんに講師役を引き受けていただいています」。このような芸術を通じた支援や活動を広く社会に届けるため、ワークショップに必要な準備や、展示会を開くための情報収集など、陰で支える業務も多いという小川さん。開催直前は、作業が深夜に及ぶことも少なくないと言います。「その分、展示会場が完成した時や、ワークショップで子ども達の笑顔に出会えた時は本当に嬉しいですね。大変なことも沢山ありますが、やっぱり自分の好きな仕事ですから」と自らも笑顔を見せます。ちなみに、カフェの営業時間は店員としてホールに立ち、訪れてくれたお客さまとの時間を大切にしている小川さん。「よく、“ここに来ると癒される”とか、時には“軽井沢に来たみたい”なんて言っていただくこともあるんですよ。私はまだ2年目で不慣れな事も多いので、常に謙虚に学ぶ姿勢を忘れず、仕事と向き合うよう心掛けています」。
2014年2月、東京の代官山と原宿のギャラリーを会場に、「東北からの発信・SOAT企画展/今だからアートをもとめて!」を開催した〈SOAT〉。被災地という逆境の中にありながら、精力的に制作活動を続けている東北の造形作家たち、そして東北で生きる子どもたちの未来のため、〈SOAT〉は東北の地から日本、そして世界に向けて今日も芸術文化を発信し続けています。
ArtGalleryそあとの庭:http://www.soat.jp/soat/
美術科総合美術コース:http://www.tuad.ac.jp/generalart/