2010年11月3日、京都造形芸術大学・東北芸術工科大学の外苑キャンパスで開催された2つのトークイベント「日本のカタチ2050」、「生物多様性とデザイン」。40年後の地球環境、そこに暮らす私たちの生活、産業の変化をデザインの視点から展望するこのイベントは、東京デザイナーズウィークの会期中に開催され、地球の未来に関心を集める、多くの参加者を刺激する内容となりました。
ウェブサービスTwitter上での呟きから始まったプロジェクト「日本のカタチ2010」の公開トークイベントは、今回で2回目。進行役を務めたマエキタミヤコ氏は、「新産業と税金の分配」を大きなテーマとして、税金を活かす参加型民主主義の重要性を説きました。「国家は税金の使い道で決まります。政党が変わっても税金の配分を変えないと政治が変わったとは言えません。私たち一人ひとりが『自分はこれがいい』と明確な意思を持って税金の分配先を選ぶことが必要」と語りました。
マエキタ氏は、40年後には、今までの「発電」ではなくエネルギーの地産地消が行われるようになること、農林水産業など一次産業に体する意識の変化が起こること、遺伝資源が豊かな国が栄え生物多様性の価値が高まることなどを展望として示しました。それら多くの産業が変化していく中で、開発と転換がどのように行われるか、情報ガバナンスで活税合意が望まれることを強く訴えました。
景観のデザインや公園のマネージメントを手がける山崎亮氏は、「新産業と税金の分配」というテーマに対して、公園の整備と運営の関係やバランスを考え直し、より有益で税金の無駄を省く方策についての実践例を報告しました。「今まで公園の初期の施設整備に10億円使っていた所を、2億円くらいに抑え、エントランス、園路、トイレなどの整備だけにします。そこから、公園管理者とコーディネーターとで本当に必要で使える設備を数年をかけてゆっくり作っていきます。公園管理者は公園作りに関心や興味のある人を、プログラムで養成していけば、新たな雇用機会創出にもなります」と、持続可能な公園作りと雇用創出の具体的な展望を明らかにしました。大阪府で実践しているパークレンジャー養成講座は、国家公務員であるアメリカ国立公園のパークレンジャー(自然保護官)を見本に2009年に開校。現在は、パーククラブ設立準備会を進め、動植物調査、イベント準備を月3回のペースで行い、公園づくりに必要な知識を学んでいるそうです。レンジャー候補生となる団塊世代のいきいきと学ばれる姿も写真で紹介。公共事業に地域住民が参加することが、参加者の自己実現と社会の活性化につながっていく可能性を示しました。
都市デザインを専門とする竹内昌義教授は、森林資源を木材として家づくりに使用した場合、間伐材を使って林業の効率化に貢献することや排出される木屑をエネルギーにすることで、現在の林業より一歩進んだ「循環する新林業」のシステムの構築が可能であることを発言。また、リノベーションを核とした中心市街地の活性化、都市づくりを提唱しました。これには、R不動産を通じて、山形、福岡、金沢の現状を知る馬場正尊教授も賛同。イベント終了後の質疑応答では、参加者から今後行うべき具体的な方策を求める声が寄せられ、マエキタ氏は「誰かがやればいいという考えをなくし、自分から課題を見つけて取り組み、みんなで情報を出し合い考えていきたい」とし、山崎氏は「次回の『日本のカタチ2050』では、いま私たちが取り組んでいるプロジェクトについて発表しましょう」と、次回の指針を決めてイベントを結びました。
2010年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議「cop10」。今回採択された、名古屋議定書などを受け、生物多様性の保全と持続可能な利用方法はますます注目を集めています。「生物多様性とデザイン」では、京都造形芸術大学教授で地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める竹村真一氏、生物資源研究の第一人者で、昆虫など小動物のナノ構造や機能を研究し社会に役立てている長島孝行氏、C2C認証企業アヴェダ事業部で活躍する黒岩典子氏が、実践例を報告し、これからの社会ビジネス、ものづくりの根元が変わることを具体的に示しました。
竹村真一氏は、熱帯林で進行する砂漠化現象や、年間4万種類、毎日100種類以上の生物が絶滅している現状を挙げ、森林を破壊しないと人間が生きていけない社会システムから、森林を保全しながら経済を維持する社会をデザインする必要があることを提言。竹村氏は、その現実的な手法のキーワードとして3つを紹介しました。
まずは、原料調達から生産過程全体に生態系サービス支払い(PES ※注)の視点を導入する『生物多様性サプライチェーン』です。これは、生物多様性に配慮した、原料調達から消費者に至るまでの一連の流れで、国産間伐材を使った木の家づくりやココナッツの廃材から部品を製造する「森で採れるベンツ」などがに当てはまります。石油高騰にも対応するサスティナブルな仕組みです。また、ブラジルの先住民とパートナーシップを結び化粧品の開発を行う黒岩さんや、生物や植物の機能をプロジェクトデザインに活かす長島さんの取り組みを受け、生物資源と産業構造の関係性と、地球貢献との可能性を示しました。
次に挙げたのは『C2C(CRADLE TO CRADLEゆりかごからゆりかごへ)』。これは、自然界で生物が土に還りまた生命を育む循環ができているように、ものを廃棄するという概念をなくすということ。C2Cについては、ブラジルの先住民ヤワナワ族とパートナーシップを結び化粧品の開発を行っている黒岩氏が、具体的な活動を紹介しました。黒岩氏が所属するアヴェダでは、化粧品の開発においてゴミがでない方法を設計段階から考え実践しています。また、先住民の生活を守っていくためのサポートと、ビジネスパートナーとして明確な利益配分を履行し、サスティナブルな関係を築いていることを発表しました。
3つめに挙げたのは、『生物に学ぶデザイン』です。竹村氏は「サメ肌がヒントの高速スイムスーツ、蚊の口吻を真似た痛くない注射針、抗菌・抗ガン機能が注目のシルク(絹)などがあるように、生命世界は技術革新の宝箱」として、地球環境を未来の安全保障の道として守り、活かしていく重要性を話しました。生物や植物の機能をプロジェクトデザインに活かしている長島氏は、玉虫を模倣して発色する透明フィルムや、抗菌性・紫外線防止などの機能に優れた絹糸や絹製品を参加者に渡しながら、生物がデザインするサスティナブルな創造力を紹介しました。
竹村氏は、黒岩氏、長島氏の発表を受け、「人間がエネルギーを持続可能な形で使っていくためには、自然サイクルに寄り添っていくことが必要」と述べ、生物資源を適切に利用する産業構造を生むことが、地球貢献になる可能性があることを訴えました。
※ PES(生態系サービス支払い)…自分たちが利用している生態系サービスの対価や、サービスを持続可能な形で利用するための保全活動に必要なコストを直接支払うという考え方。