本講座では、陶磁器の割れたものや欠けた部分を漆によって修理する技術の初歩を会得します。6回の講座では、地固めや下地付けなど漆芸の基礎的なことから、銀粉を蒔き、固め、磨いていくまでの工程を、実践しながら学んでいきます。初めて金継ぎを体験する方も多いので、最初に修理するのは、この講座のために用意した欠けさせたぐい飲みや湯のみ。蒔く粉も最初は銀粉です。後期は自分が直したい陶磁器を用意し金粉を蒔く上級講座に展開します。
講座の雰囲気は明るく和やかで、講師である小林教授や柳橋先生に受講者たちが次々と声をかけ、作業の確認を密にしながら講座は進んでいきました。漆を塗る時には「セロハンテープの半分の薄さ、20ミクロンくらいに薄く均一に塗ってくださいね」という小林教授の言葉に、「えー!」とどよめきの声も。漆を厚く塗ると、縮んでシワになり塗り直しになるので受講者たちは真剣に塗りの作業を行っていました。
講座の中では、ただ作業をするだけでなく、金継ぎの材料である、銀粉、金粉、すず粉、真鍮粉について、それらを使った時に得られる効果、大きさの違い、技法、産地や価格までを丁寧に説明していきます。蒔絵に使うアワビ貝の殻を並べた時には、虹色の光沢の美しさに受講者たちから驚きの声があがっていました。受講者は熱心にメモを取りながら先生の話を聞き、「消し粉と丸粉の違いは何ですか?」「粉筒は自作もできますか?」など活発に質問を投げかけていきます。中でも、積極的に質問をしていた受講者の方は本を見ながら我流で金継ぎをしているとのことで、とても意欲的です。「自分でやるときは新漆を使うので、講座で本漆を使えるのがいいですね。我流でやってきた金継ぎと本格的な技術を比較しながら学んでいます。以前骨董市で、数十万円もする古伊万里が欠損品だということで格安で手に入れることができ、自分で金継ぎをしました。自分が手をかけた蕎麦猪口で食べる蕎麦は美味しいですよ」と、金継ぎの楽しさを教えてくれました。
受講者の多くは、昔から金継ぎに興味があったものの実際に習う機会がなかったと語っていて、意欲的に講座に参加しています。「カルチャースクールの教室と違って、大学の講義のような本格的な雰囲気に最初は緊張してしまいましたが、今はだいぶ慣れてきました。楽しみながらもっと勉強したいです」という方や、「金継ぎを学ぶと、ものの大切さを改めて感じます。家にある古い陶器や漆器の多くが震災で壊れてしまいました。少しでも自分の力で直して使えるようにしたいです」と、この講座で学んだ技術を震災後の生活の修復へ活かす意欲を示してくれた方もいました。壊れたものを修理して長く使うことは、日本人の無駄のない生活や精神の表れとして受け継がれるべき習慣と技術であることを改めて感じさせられます。
小林教授は、今回の講座で金継ぎを通して、普段縁遠くなりがちな漆を身近に感じ生活に活かして欲しいと考えています。「陶器の修理は要望が多いわりに、自分で簡単に修理できることは知られていません。漆は下地を選ばず、木の他にも金属や皮など様々なものに塗ることができるのでいろいろ利用ができるんですよ」と、日本人が長く親しんできた漆の魅力と可能性を伝えています。「後期はいよいよ金粉を使った金継ぎを行います。今回は練習として銀粉を使ったので本当は銀継ぎなんだよね(笑)」講座の和気あいあいとした雰囲気は、受講者の学びたいという積極的な姿勢もさることながら、小林教授の楽しい人柄によるところも大きいようです。受講者の中には壊れた陶器の修理を依頼してくる人も多く、漆を通して情報交換をする学び合いの場となっています。