実際に学生が被災地を訪れ、触れた、心の記録が『3.11After Report—あのとき僕らは』として記されています。5月にオープンしたばかりのやまがた藝術学舎で展示、一般公開しました。

『3.11After Report—あのとき僕らは』
被災地をめぐり、言葉と写真で綴る「心のひだ」。

やまがた藝術学舎の中にプロジェクトルームが置かれる「東北復興支援機構TRSO」は、新しい社会、新しい東北を創造することを目的に活動を始めています。被災地支援活動の報告が展示されるプロジェクトルームで、被災者の生の声を綴り、大きな写真パネルでその表情を伝えたのは『3.11After Report—あのとき僕らは』。東日本大震災が起きたあの日、あの時、東北の若者たちは、どこで、どんな「心のゆれ」を体験したのか、誠実にありのままに記録する3.11世代のダイアローグ(会話)です。

上:街の写真を撮りを研究しているという、グラフィックデザイン学科院生2年の金子正人さん。『3.11After Report』では取材と撮影を担当。下:被災者と非被災者の間にギャップを感じるという、美術史・文化財保存修復学科4年生の鈴木淑子さん。

取材をしたのは大学院生グラフィックデザイン領域2年の金子正人さん。実際に被災地を訪れ被害の現状を目の当たりにした時、金子さんはこの震災を忘れないという想いで『3.11After Report—あのとき僕らは』に取り組むことを心に刻み、同じ世代としてずっと記録していくことを決意したといいます。「被災者の方々と話をして印象深かったのは、自分の将来について考えようとしている人たちがいた、という事実です。生活を取り戻すこと、未来へ向かう姿は確実に前を向いていて…。現地に入った時、正直に言うとびっくりしてしまい、どうしていいか分からなくなっていた自分の心境と対照的に映りました」と語る金子さん。話を聞き、書き留めて言葉を返し、また聞き話す、という交流をすることに難しさを感じながらも、できるだけ多くの人の話をレポートし続けたいという意思を強く示しました。

TRSOのメンバーとなり、親交の厚い先生や学生と関わることを新鮮な気持ちで受け止めている、と語る川村智美さん。福興会議のHP上のコンテンツ「このあしもとにつづく」で、写真と文章を公開。自身の想いを綴っている。

歴史遺産学科4年生の鈴木淑子さんも取材にあたった一人です。鈴木さんの実家は宮城県東松島市にあり、地震の2週間後には被害の状況を目にしていました。「私が東松島に戻った時には、街も人も少しずつ落ち着いている部分があるように思いました。でも、人や場所それぞれに違ういろいろな状況があり、地震から3ヶ月以上が経った今もそれは変わらないと思います。『3.11After Report』では、一人ひとりの中で認識できていないまま流れていってしまう『3.11』に対する想いや言葉を、留めておきたいと思い取材を行いました」と、言葉を選びながら話してくれた鈴木さん。同世代の高校生や大学生、社会人の状況や感じたことを綴ることは、まだ見つかっていない東北の未来を創ることにつながるとして、同世代の仲間として「3.11」の「それから」に向かい合っていきたいという想いを伝えました。

TRSOのプロジェクトルームで円座になり、会議をするメンバーたち。この日は「スマイルエンジン山形」について、危機予測や発着地点が大学正門からやまがた藝術学舎に変更になる上での問題点などについて話し合いました。

TRSOに参加するメンバーの中には、仙台市在住で芸工大出身の川村智美さんがいます。ウェブ上のコミュニケーションサービス、Twitterがきっかけで参加することになりました。川村さんは、石巻で被災した実家の周囲の写真や状況をブログにアップし、粛々と伝え、現実と向かい合い、「表現はどこにいくのか」迷いながら活動をしています。仙台市内で劇場管理の仕事をし、若手アーティストとの交流と支援を行いながら感じることは、表現を求められない現在の状況と一人ひとりの心境だそうです。しかし、それと同時に、フィジカルな支援から心の栄養となる文化・アートへつながっていく道筋があることも感じているそうです。川村さんは、『3.11After Report』について、金子さんや鈴木さんの「心情に入り込まないと聞き出せない言葉がある」「全ての人の体験を一定のものとして、同じように聞いてはいけないと思う」という言葉を受け、「人の話を聞くというのは大変だと思います。その人の言葉で体験を追体験するわけですから。でも、その傷や痛みを瘡蓋(かさぶた)にしないで、痛くて痒い膿にしていくことが必要なんだと思います。ベールに包んでしまわないで、剥き出しで」と語りました。

『3.11After Report—あのとき僕らは』は、現在も〈福興会議〉のHP上で〈FIELD NOTE〉として展開しています。穏やかに、また容赦なく訪れる今日と明日を迎えながら生きる私たちが、感じ、見るべき現実が、学生たちの真っ直ぐな視点と言葉で切り取られています。

お詫びと訂正
歴史遺産学科4年生の鈴木淑子さんを、紙面上では美術史・文化財保存修復学科在籍と掲載してしまいました。お詫びして訂正致します。

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