無印良品の家と建築・環境デザイン学科が一昨年から行っている産学共創「未来の家プロジェクト」から生まれた、無印良品の都市型住宅『縦の家』が、2014年4月にリリースされました。日本の住まいの形、環境、木造住宅と温熱性能の関係を研究した「未来の家プロジェクト」では、大学構内の演習室に原寸大の住宅構造モデルフレームを作り、無印良品の家具を実際に配置。ワークショップを通して学生の自由なイメージを膨らませ商品化へとつなげていきました。都市部の密集地でも明るく広く、暖かく過ごせる木造住宅を目指した『縦の家』の開発には、低炭素化社会を目指して本学敷地内に建設された山形エコハウスの研究成果と、学生の暮らし方のアイデアが活かされています。
『縦の家』最大の特徴は、家の中央にある鉄のスケルトン階段。省スペースを考えた場合、小さく設定しがちな階段に、あえてゆったりとした広さを確保しています。階段を腰掛けに使うなど家族間のコミュニケーションを真ん中に置いた、新しい暮らし方が広がります。1階から3階までの吹き抜けの空間に階段を介して少しずつ段差を設けたスキップフロアは、壁などの仕切りがなく、光と風、熱が通る開放感と、家族の気配をゆるやかにつなぎ、家全体に一体感をもたらしています。外観は、都市の住宅街で木の素材感が際立つデザインに。無印良品の家の開発担当の本多氏は、『縦の家』が全国展開することによって街の中に木のぬくもりを広がっていくことに期待を寄せました。
都内の住宅地に建てられたモデルハウスを訪れた建築・環境デザイン学科の学生たちは、自分たちのイメージが『縦の家』という商品になっていることに感動。想像より広く明るい室内や、無印良品の家らしいシンプルな住みやすさが細部まで行き届いた空間に感嘆の声をあげました。大学院1年生の中川未咲さんは「ワークショップでは模型からわかることが沢山あることを学びましたが、本物の素材で家になっているのは、やはり嬉しいですね。実際に自分が住みたい家になりました」と、笑顔を見せました。竹内昌義教授は「学生ならではの自由な発想はおもしろく、商品化に耐える提案をすることはいいトレーニングになったと思います」と学生の成果を捉え、「これからの時代は、地方が最先端のことを進めていくだろうと思います。例えば人口減少と高齢化が首都圏で大規模に起こったとき、既にその問題を抱え解決に向けて研究と対応を進めている山形での事例は、都市にすぐに応用できるでしょう。地方で実験したことを都市に還していく形ですね。どのように暮らし、地域とどう関わるのか。地方と首都圏の両方で対応できるのが芸工大です」と、山形で建築・環境デザインを学ぶ意義について見解を示しました。無印良品の家の開発担当の本多氏は、芸工大との連携を通し多くの刺激を受けたといいます。「ワークショップの中では、様々な暮らしのアイデアが出されました。1階の玄関部分とキッチンを店舗のように使い、個人の家としてだけではなく地域の人と関わる家にするというアイデアは印象深かったです。商品化にはつながらなかったものの、個人住宅としての使い方しか考えていなかった私たちにとって、全く新しい発想でした」。『縦の家』、そして芸工大との連携の可能性はまだまだ広がっていきそうです。