芸工大教員からは唯一、山形ビエンナーレにアーティストとして参加される三瀬准教授。参加の経緯とプロジェクトの内容を教えてください。
僕が芸工大に着任したのは2009年。それまでギャラリーや美術館を発表の場として活動してきましたが、『ひじおりの灯』で地域の人と話しながら制作したり、旧郵便局舎で展示をしたり、芸工大に来て沢山の驚きがありました。大学が主催する山形ビエンナーレでは、大学と作品、地元市民とアートが主軸になってくる部分もあり、東北を拠点とする日本画家であり教員でもある自分も参加することにしました。
本館7階のギャラリーでは、僕がこの場所に来てつくった作品と、東北における美術、表現活動を学生と模索するプロジェクト「東北画は可能か?」の個人作品、共同作品、を並べます。芸工大の他の先生にも“東北”をモチーフにした制作もお願いしているので、絵画のほか彫刻、工芸の立体作品も出品します。トークイベント「夏之介NIGHT」では、現代美術家のやなぎみわさんをお招きして、台湾芸術大学、京都造形芸術大学、本学のコラボレーションでやなぎさんの舞台装飾を制作した、STP(ステージトレーラープロジェクト)について話します。現在「ヨコハマトリエンナーレ2014」に出品しているやなぎさんのアートプロジェクトの原画に学生が更に手を加えて仕上げた東北画も出品します。
小さな舞台をつくり、教員や学生、青森、福島、山形で出会った方をいっぱいお呼びして、祝祭的な空間で話をしたいと考えています。その他に、美術研究棟ギャラリーでの展示と、大学院生たちが自分たちのアトリエをオープンスタジオとして開放します。彼らが、どういう素材を使って、どんな本を読み、どんな取材をしてものをつくっているのかを見ることができるので、美術をひらくきっかけになればと。
三瀬准教授の個人作品について。
今回、メインとなる僕の作品は『風土の記(かぜつちのき)』。これは、僕が住んでいた奈良から東北までの長い距離を描いた、縦2.7×横50メートルに及ぶ非常に大きい作品です。奈良と山形は、気候風土、食べ物、言葉、見える風景、気質が全く違い、同じ日本とは到底言えない恐るべき距離感があります。それを「日本画」という一括りにして教えているわけですが、僕はもっと細かく土地や場所を見ていきながら、そこで作品をつくっていきたいと考えています。僕は、土地によって異なる気候風土、言葉、食べ物、人の気質など、細かく土地や場所を感じながら、そこで作品をつくっていきたいと考えています。その土地には、風土が生み出す、様々な信仰や祭りなどがあり、それを集めていく風土記(ふどき)的な感覚で絵を描きたいんです。奈良から東北まで、様々なことを経て長い日本を描くこと自体が、東北はつながっていることを伝え、東北をひらくのではないかと思います。つまり、東北はつながっているんだ、と。言葉にするとそんな感じです。
「ご自身の作品」と「東北画は可能か?」と、2本の柱で見せるということでしょうか。
僕の中で、その2つは入り交じっている感覚があります。アートといえば、自己表現、自己実現であり、アートワールドにはコレクターがいて批評家がいてプレイヤーとしてのアーティストがます。世界を股にかけて展示会をする、というのもひとつの姿です。しかし、地に足をつけて自分の根拠を探り、今住んでいる場所で受け入れられるような表現形態も探すべきだし、それは本学の大きなミッションでもあります。「東北画は可能か?」は、課外のチュートリアルにも関わらず、コミュニティデザイン学科やテキスタイル学科の学生たちがコースを越えて参加し、青森、福島県の喜多方や会津に深く入り込んでいます。能動的に東北での美術を探すという活動は、作家としての今の僕のスタンスと通じるところがありますね。個人と集団の制作が入り交じっているところを見せられたら、と思っています。
そういった、自己表現に“共同体で描く”という思考が交じり合うようになったのは、震災も影響しているのでしょうか。
そうですね。今回展示する絵画『方舟計画』は、震災直後に学生と共に描いたものです。今見ると辛いものもありますが、いつでもその時の気持ちを思い返すことができるスイッチのようなものとして残した、という点が非常に重要なだったなと。現代のモノからコトへ、形にならないものをリデザインする方向性と共に、感情や時代精神を刻んだ絵画や彫刻を通して、まだ見ぬ未来に「今、僕たちはこんなことを感じていたんだ」と、皆さんと共有していく事も大切だと思うんですよ。
僕が今、彼らと「東北画は可能か?」でやっていることは、大勢の人間が合意形成してつくられる、壁画みたいな恒常的なイメージの創作につながっている気がします。ある出来事が起きて、それに対してのリアクションとして皆で共につくっていく、多くの人に必要とされる作品です。震災以降、ある個人の作品がクレジットされて「いいね」と言われる時代ではなくなってきています。コンクールや公募で賞を獲得し、美術館で個展を開いて、ゴール、というのはもう機能しない。どうしようもない衝動、欲望など個人のドロドロした部分が噴出してしまうのがアートなので、そこも受け止める大きな器のような作品がつくれたらな、と考えています。
「東北画」は、どのように受け止められると思いますか。
学生や教員、卒業生や「東北画は可能か?」の活動を通じて知り合った作家の方々に描いていただいた、東北をモチーフにした絵画作品は85枚。その他に彫刻、工芸の立体作品が並んだとき、醸し出す雰囲気があると思います。そこに立った山形の方々が驚くべき何かを見るかもしれないし、腑に落ちる何かがあるかもしれません。それはきっと各々違うでしょう。僕も楽しみにしています。
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山形ビエンナーレ2014は、2014年9月20日〜10月19日までの開催です。詳しくはこちらのオフィシャルサイトをご覧下さい。