夜を徹しての設置作業で無事に完成した「上の湯」内壁の大型テキスタイル作品『肘折媒染』。さまざまな人々が集う場にふさわしい優しさとあたたかさに満ちた番台になりました。

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広報誌〈g*g〉第6号の表紙は、
素敵に生まれ変わった肘折温泉の共同浴場「上の湯」。
内壁の大型テキスタイル「肘折媒染」が人々をあたたかく出迎えている。

肘折色を出したいとテキスタイルの先生と学生たちが
試行錯誤の末にたどり着いた和紙と糸と草花と。

山崎先生が草木染めで染めてくれた糸を肘折の水にさらして媒染を試みる学生たち。肘折の色にたどり着けたのだろうか。

芸工大では、肘折プロジェクトとして大蔵村の「肘折温泉」を舞台にさまざまな活動を行っています。昨年は、温泉街のシンボル的な共同浴場「上の湯」が建築・環境デザイン学科の竹内昌義教授と学生等による改修プランで美しく生まれ変わりました。さらに、今度は番台奧の真っ白な内壁を使って何かできないものかとの声が寄せられたのです。そこで、今回は工芸コース・テキスタイル専攻の出番となりました。辻けい教授が4年生を引き連れて肘折温泉を訪れ、その印象を「上の湯」の内壁に装飾として表現することになりました。

タモ材の枠に糸をめぐらした状態。これを紙漉の「舟」にドボンと浸けると紙の繊維が糸に絡まって不思議な造形になる。

誰もが自然の豊かさに息を飲み、その肘折色を表現するということはすぐに決まったものの、具体案はなかなかまとまりません。そこで、辻先生のアドバイスを受けて、まずテキスタイルの山崎先生に草木染めを依頼し、その糸を炭酸泉や鉱物を豊富に含んだ肘折の水にさらすことで微妙な色の変化を持たせ、「肘折色」とすることに決定。名付けて「肘折媒染(ばいせん)」(by辻先生)、それがそのままテキスタイル作品のタイトルとなりました。
西川町の紙漉職人 三浦一之さんの指導のもと、押し花のようにした肘折の草花や、肘折媒染した糸を月山和紙の繊維に絡めるように漉き合わせて、学生たちは思い思いにオリジナルの和紙を仕上げました。木枠は、庄内の建具職人さんによる手作りで、たくさんの職人さんや地区の人々の協力を得て、ようやく設置の日を迎えたのでした。

張り終えた壁紙の上に糸のオブジェを取り付ける作業をする学生。細部にまでこだわって丁寧に。

設置作業は6月14・15日の2日間。温泉街の中心、「上の湯」での温泉街には少し不釣り合いな作業着姿の学生たちによる作業は温泉客や地元の人々の注目の的となりました。コンクリートの壁面に特殊な糊材で和紙を圧着させた上で、丁寧に糊バケでたたいて凸凹や草花の立体感を出しました。その上に糸のオブジェの取り付けが始まって、設置作業もいよいよ大詰め。和紙のテクスチャーが思い通りに出ない、壁面の穴から水が噴き出すなどのアクシデントに見舞われながらも無事「肘折媒染」の設置は完了しました。
果たしてその作品は、「上の湯」を利用する人はもちろん、通りすがりの人も内壁の装飾に驚き、立ち止まって見ていたようです。「共同浴場は日常の延長、優しい、あったかい装飾にしたかった」という辻先生の思い通りの仕上がりといっていいでしょう。

辻けい教授。壁画制作を統括的に指導。2009年度の美術科テキスタイルコース誕生を受けてますますの活躍が期待される。

制作や設置作業にも参加したテキスタイル4年の平塚太一郎さんと松田かやさんは、公共の場に自分たちの作品が展示されることの喜びと、地元の人々に喜んでもらえた充実感を味わっていました。そこに「肘折媒染」がある限り、参加した学生たちにとって肘折は特別な場所であり続けることでしょう。
「この肘折での出来事すべてが学生たちにとっては素晴らしい体験。ここで磨かれた感受性はきっと卒業制作にも反映されることでしょう。そして、これから社会に出て行く上でも貴重な経験になったはずです。」と、辻先生は肘折プロジェクトに大きな意義を確信していました。

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