日本画「古代魔象」 金子富之さん
博士後期課程3年の金子富之さんは埼玉県出身。幼い頃から絵を描くことと妖怪などの不思議な世界が大好きだったことから、それらを題材とした作品を数多く描いてきました。遠野物語に興味があり、東北地方に不思議や神秘を感じて芸工大への進学を決めた金子さん、博士課程修了後も山形に残り、作家活動を続けていきます。
g*g8号の表紙を飾ったネパールの妖怪「古代魔象」をはじめ、ここで紹介している作品はすべて現実を離れた異界の生きものを描いたもの。金子さんの作品の出どころは禅の世界。「唯識論では"人間の第七識には魔境が存在している"と言われており、その魔境から噴出してくる感覚やビジョンを全面に表現できたら、魔性を秘めた絵が描けるのでは」との狙いがあります。妖怪は自分の中から湧き出てくる思いを表現するための媒体にすぎず、その作品ごとに最もふさわしい妖怪を題材として選んでいるのです。
金子さんは、「作品が力を持っている」と評価されることが一番うれしいといいますが、彼の作品は時として刺激が強すぎるのか、中には泣き出す人、鳥肌や重圧感を訴える人もいるそうなのです。昨年、韓国で開催された「Myth in us/私たちの神話展」に出品した際にも、その特異な作風がかなり話題になっていました。
「竜を呑む大蛇」を描いていた頃、金子さんはちょうど「肘折の灯」プロジェクトに参加していました。そこで肘折の大蛇伝説に出会い、山で1m以上の蛇の抜け殻に出会うなど、引き寄せの法則を実感したといいます。大蛇を悪食の象徴として捉え、本来の力関係では考えられない大蛇が竜を呑み込むという構図に至ったのでした。大蛇と竜、どちらのウロコも実に緻密に描写されています。同じ作家の作品とは思えないほど画風の違いに驚かされたのが最新作の「畳叩き」。ガリガリ引っ掻いたような仕上がりは、幼い頃にピエロが怖くてしょうがなかった作者自身が、長年ため込んでいた思いを一気にはき出した現れと自己分析していました。
角川書店発行の季刊妖怪マガジン「怪」に妖怪の絵を応募したところ第4回怪大賞奨励賞を受賞。水木しげる先生や荒俣宏さん、京極夏彦さんらに「普通じゃないんじゃない」や、「ちょっと馬鹿ですが凄い」などと言わしめた金子さん。妖怪の世界では既に一目置かれている存在のようです。