「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2014」が
ついに開幕。山をひらく、一日目に展開した出来事を
レポートします。

9月20日、気持ちよい秋晴れの中「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2014」が開幕しました。オープニングセレモニーを行ったメイン会場の山形県郷土館「文翔館」では、細谷知行副知事、市川昭男市長らの挨拶のほか、芸術監督である荒井良二氏の作品の除幕式、市民ボランティアによる神楽の舞が披露され、集まった多くの市民の目を楽しませました。

文翔館の正面広場に出現した円形のサッカーフィールド『WORLD CUP』はトラフ建築設計事務所によるもの。ここでは、当日に出会った大人と子どもの混合チームでキックオフ。手づくりのブブゼラが雰囲気を盛り上げる中、手で編んだボールを追って走り回るプレイヤーの姿や声を、観客はフィールドの中にあるベンチで感じ、一風変わったサッカーの臨場感を味わうことができます。中庭で色とりどりの食材を切り、束ね、吊るしていたのは、料理創作ユニットGomaの展示ブース『Goma 小屋』です。スクールラボの参加者と作った果実酢や、会期最後まで吊るすという野菜は色鮮やかで、驚きの声を上げて訪れる来場者をGomaの2人とスタッフたちがあたたかくお出迎え。芸工大卒業生の相田広源さんが制作した、梅干しを干すザルをイメージした直径8メートルの天井の上には、野菜が乗ったザルと、顔を出してそれを見ることができる穴があり、参加者が野菜の気分になれる仕掛けが施してあります。また、ホットプレートを囲炉裏に見立て団子を焼くワークショップができるスペース、つきたての餅に包まれる気分を味わえる小部屋など、体験を通して“食”を考える独自の展示となっています。

小説家のいしいしんじ氏は、“門”をテーマに期間中10編の掌編小説を書き上げ、文翔館のギャラリーに貼り出していきます。作品は持ち帰り自由で、初日に置かれていたテキストは、『その1:ひらく門』と、『その2:問う。』の2編。前日にギャラリーの飾り付けを自身で行ったという、いしい氏は「図画工作みたいで楽しかったですね。小説は言葉を使っているから大人の作業と思いがちですが、僕にとっては言葉を貼付けていくような、図画工作と似ている部分があるんです。2、3歳の子どものように、初めて知ったような驚きをもって言葉を使うのが理想。絶えず一番新しいものを貼っていくという心がけで小説を書いているので、改めて、飾り付けからやらせてもらって良かったなと思っているところです」と語りました。また、オープニングセレモニーの奉納神楽では、最後に登場する翁が扇を広げ、地に描いた円に踏み込んだ瞬間に風が吹き抜けるのを感じたと振り返る、いしい氏。「翁が門をひらき渡ったな、と。神楽は本来、これからお願いします、という願いを持ったりして、何か大きなものと人とのやりとり、ある種の交換が行われるものです。それが実現していたのを見て、山形は昔から、大きなものと人とがつながってきている土地なのだと分かりました。それは何も特別なことではなく、日常と非日常が交わる祭りの風景ですが、僕がいる京都は神仏の声が賑やか過ぎて聞き取り辛い。山形はシンプルで、神様に対して行ったことにきちんと答えが返ってくるのが分かります。自然なやりとりがあったんです」と、笑顔で語りました。

芸工大本館の7階ギャラリーでは、三瀬夏之介准教授の作品『風土記(かぜつちのき)』と、東北における美術、表現活動を学生と模索するプロジェクト「東北画は可能か?」の作品群を展示。青森の裂織や、彫刻、工芸の立体作品、「東北画は可能か?」の活動を通じて知り合ったという作家の絵画作品85点と、眼下に広がる広大な山形の風景が並び、来場者を「みちのおく」へと誘う圧倒的な展示が行われています。初日は現代美術家のやなぎみわ氏を招き、トークイベント「夏之介NIGHT」を開催。本学学生が舞台装飾を制作し、横浜トリエンナーレ2014に出品されているSTP(ステージトレーラープロジェクト)をはじめ、やなぎ氏が美術を志すまでの経緯や、在籍していた京都市立芸術大学について語りました。当日は大学祭と重なったこともあり、学生時代に精一杯取り組んだ大学祭についても振り返り、多くの学生と市民が2人の話に耳を傾けていました。

宵闇に美しく浮かぶ文翔館の議場ホールでは、山形ビエンナーレのオープニングライブが初日の夜を飾りました。高取信哉氏の音響による、洞窟に落ちる水滴の音が響く中、芸術監督の荒井良二氏のライブペインティングがスタート。テニスコーツの奏でる音楽が会場の空気を濃密に優しく満たしていくと、歌とギター、荒井氏のドローイングが相互に響き合い、得も言われぬ一体感と胎動にも似た根源的な喜びを生み出していきました。トンチのスティールパン、川村亘平斎氏の影絵が織りなす山形に伝わる民話の世界は面白く、驚きと笑い、物語の豊かさで観客を引き込みました。最後のセッションは学生が浴衣を着て登場。花笠音頭を歌い、踊り、アーティストや観客と共に芸術祭の幕開けを祝いました。

山形ビエンナーレ2014は、2014年9月20日〜10月19日までの開催です。詳しくはこちらのオフィシャルサイトをご覧下さい。

 

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