表紙のART
新・広報誌『g*g』の記念すべき第一号の
表紙を飾ったのは、この人のこんな作品。
卒展作品の中でもダントツの存在感を放っていたのが、この巨大な鉄のオブジェ。新酒の季節に酒蔵の軒先に飾られる杉玉の巨大版のようだが、これはまぎれもなく鉄の塊、吊り下げている天井の鉄骨が耐えうるギリギリの重量とか。制作者は、美術科工芸コースの新関俊太郎さん。鉄パイプを溶接でせっせとくっつけること約半年、「父に買ってもらった鉄」は見事な鉄のオブジェと化したのです。真夏の溶接作業は過酷を極めたし、ちょっとした火傷は日常茶飯事だったとか。
山形市内で生まれ育った新関さんは、以前から市内を一望する西蔵王の眺めが大好きで、何か考えるときにはよく訪れていたといいます。進学先として芸工大を選んだのもその延長上のようなもので、市街地を望む芸工大でなら何かができそうな気がしたのだそうです。そして、何より山形が好きだから。
その4年間の集大成となる卒業制作で「父に買ってもらった鉄」を制作しようと思ったのは、「OUR ART. OUR SITE.」という卒展テーマありきの発想だったといいます。確かに、この巨大なオブジェの展示を受け入れてくれる美術館や公民館は見つかりそうもありません。その場で創ってその場に展示する、だからこそ成立した作品。「父に買ってもらった鉄」というユニークなタイトルにも新関さんのさまざまな思いが込められているようです。まだ、親のスネかじりではあるけれど、しっかり芸術を追究しているんだという自負や、作品を創っている一方で、それが何かを壊していることに他ならないという矛盾。新関さんの言葉の端々には、とても哲学的な空気が感じられました。
卒展の約2カ月後に再び「父に買ってもらった鉄」を訪ねてみると、雨や雪にさらされて一段と錆びて赤茶け、ある意味、渋みを増していました。この時間と気候による変化も新関さんの狙いの一つだったようです。この時の流れの中で新関さん自身も変化し、この春から大学院生として「実験芸術」という新たなジャンルでの創作活動に挑戦しています。