シンポジウム〈ウガンダのエイズ孤児、アーティストに出会う〉の第2部は、第1部で報告したウガンダでのワークショップを受けて、「アートとデザインの可能性」について話し合われました。脚本家の小山薫堂企画構想学科教授、〈100万人のキャンドルナイト〉の呼びかけ人代表として知られるマエキタミヤコ氏、世界銀行TDLC広報担当官の大森功一氏をパネリストに迎え、コーディネーターは宮島副学長。第一線で活躍する豪華メンバーによるシンポジウムは高い関心を集めました。
まず、宮島副学長から、自らが長年取り組んでいる被爆柿の木二世を植樹して育ててもらう〈『時の蘇生』柿の木プロジェクト〉や京都での〈アーティストサミット〉などの活動を通し「アートやデザインには社会に貢献しうる素晴らしい可能性があることを実感している」と自身の考えを発表。それを受けて、それぞれの立場・方法で社会貢献を果たしているパネリストのみなさんにこれまでの実績を踏まえて、次のウガンダプロジェクトにつながるアイデアの提供を呼びかけたのです。
世界銀行の大森氏は、まず初めに地球全体の人口が今後40年ほどで25億人さらに増えると予想されていること、その分の食糧や水、住宅、教育や医療の確保の難しさなどをわかりやすく解説。その上で、こうした世界が抱える大きな問題を解決するためにひとり一人に何ができるかという点で、ウガンダプロジェクトをよいヒントにしたいと関心を示しています。
次に発言を求められたマエキタ氏は、ウガンダプロジェクトで紗に描かれた絵が透けて重なり合う感じの素晴らしさや、「人は人を助けられると確信した」という学生の言葉に感銘を受けたことから話をスタート。そして「資源の奪い合いやフラストレーションが戦争の引き金になりかねない現代社会は、まさにアートの力を求めている。」と宮島副学長の発言に賛同。自らの取り組み〈100万人のキャンドルナイト〉が社会を動かす新しいカタチとなり、環境のことを考えるきっかけになってくれれば欲しいと、これからの活動への思いを発表しました。さらに、アートの力を目の当たりにした実例として、平和デモを紹介。当初はあまり参加者が見込めない平和デモでしたが、新聞にぬり絵のプラカードを掲載し、「こどもと一緒に作ってあなたも出かけよう」と呼びかけたところ、大変な人数が集まったというのです。きれいに色を塗ったり、ボンボンを飾ったり、何かきっかけがあれば日本人は思わぬクリエイティビティを発揮してくれるようです。
次に、小山教授からは〈東京スマートドライバーキャンペーン〉についての報告。危機感をあおって注意を促したり、道路環境を整備しても減らなかった首都高の交通事故を小山教授は人と人とのコミュニケーションによって減らそうと考えました。オシャレ、かっこいい、自分にも出来そうと思わせる交通安全キャンペーンの新しいカタチ。相手を思いやる気持の連鎖をメディアが取り上げ、著名人が発信することで企業も動きだし、大きなうねりとなって確かな成果を上げているといいます。
「お説教にならずに、心のヒダにスッと入っていく、人の心を変え、社会を変えるとてもチャーミングでユーモアのあるポジティブキャンペーンですね」と、2人の取り組みを高く評価する宮島副学長。そのセンスでウガンダプロジェクトにも何か提案をとお願いすると、マエキタ氏は「紗の生地に人型を書いてそこに希望を書く」行為にネーミングをつけてみてはと提案。その発展形として、恋人同士で、親子で人型を取り合うキットにして販売し、収益金をウガンダに寄付するというのが小山教授の描いたシナリオ。会話の中で生まれるアイデアの連鎖に刺激を受けた大森氏からは「世界銀行の融資のあり方としてソフトにも目を向けたい」といった発言も。
「ソウゾウリョクを持った人々と世界銀行が手を組めば、世界の問題を解決できるポテンシャルはさらに高まるはず」と、宮島副学長がシンポジウムを締めくくり、会場はしばし熱い拍手に包まれました。