g*g Vol.26 WINTER 2014
東北パイオニア株式会社(以下、東北パイオニア)とプロダクトデザイン学科は2010年から産学連携プロジェクトを行っています。今年度はプロダクトデザイン学科の大屋彰さんと鈴木天明さんが、東北パイオニアの協力のもと卒業制作に取り組みました。コイルの水平な動きを、振動板の垂直な動きに変換する方式で高音質と薄型が両立できるのが特徴のスピーカー技術〈HVT方式〉、〈有機EL〉、〈メカトロニクス〉の3つのコア技術を持つ東北パイオニアとの制作は、2人に大きな刺激と学びをもたらしたようです。
大屋さんがデザインしたのは、東北パイオニアが独自開発した技術、HVT方式を使用した円型スピーカー。東北パイオニア本社でこの技術を体感した時、大屋さんは遠くまではっきりと届く音の美しさに感激。最先端の技術を用いて従来にはないインテリア性を考えたスピーカーを作ることを決意しました。均一球状の放射特性をもった無指向性のスピーカーを向かい合わせて置いた時にどう聴こえるのか、より自然で心地いい音がする場所ができる可能性を探り、8ヶ月もの間検証を重ねながら完成を目指しました。長期間ものづくりに取り組む中で得たのは、微細な構造部分まで考えてデザインすることの重要性だそうです。「自分以外は東北パイオニアさんの技術者、開発者であるという環境の中、今まで自分は0.01mmの構造まで考えるということがなかったと気づきました。技術者の方と話し考えに触れることで、ものづくりに対する考え方が変わってきたと思います」と語りました。木曽ヒノキで有名な長野県木曽町出身の大屋さんは、小学生の頃からものづくりに親しみ、サッカーに夢中だった中学時代にはシューズデザイナーになりたかったといいます。高校生の時にはインテリア科、工芸クラブに所属。靴だけでない製品デザインの幅広さを知り、プロダクトデザインの道を志し、卒業後は大手機械製造メーカーに就職予定です。「大学では多くのことを学びましたが、一番よかったのは地域に根付いた地元企業と一緒にものづくりができたこと。地域の技術者の方々と関わりながら作っていくことは、他ではできない経験だと思います」と語る大屋さん。今後はこの経験を活かし、人の役に立ち人を笑顔にするプロダクトデザインをしていきたい、と抱負を語りました。
一方、山形発祥の技術、有機ELに以前から興味があったという鈴木天明さん。実際に東北パイオニアの技術を目にして、メカトロニクスと組み合わせた有機EL照明を着想しました。コンセプトは“人の感性に響く、新しい光とのインタラクション”。手元のオブジェクトを引き上げると壁面の照明が立ち上がり、引き上げる高さによって照明の明るさが変化、回転させると壁面の照明も色合いが変化しながら回転するという、光と人が相互作用を生み出す照明をデザインしました。「最先端の技術を使って卒業制作ができるのは自分にとっていいチャレンジ。2つの技術を合わせることで今までにない照明のあり方を提案できると思いました」と、作品に手応えを感じています。鈴木さんは、グラフィックデザイナーである父親の影響で“デザイン”という言葉が身近にあり、小さな頃から手を動かすのが好きでプラモデルなどを組み立てていたそう。今回の制作では、形だけ作るのではなく製品に落とし込んでいく部分に難しさを感じていましたが、その難しさこそ一番の学びだと卒業制作を振り返ります。「卒業後は展示会のブースデザインを行う企業に入社予定です。分野にとらわれずデザインに関わり、一生涯クリエイティブに生きたいです」と、これからの展望を語りました。
学生たちの制作について、東北パイオニア技術開発センターの渡辺輝一氏は「スピーカー(HVT方式)、有機EL、メカトロニクスのコア技術はそれぞれ独立した事業部門がもっています。学生がそれらを組み合わせた新しいモノを提案してくれることは、会社にとってもよい気づきにつながっています」と、双方にとって実りあるプロジェクトとなっていると述べました。