g*g Vol.21 SUMMER 2012
高畠町に古くから伝わり生活に密着してきた高畠石は、2010年に最後の職人が引退して以来、採掘は行われていません。しかし、長い年月をかけて切り出された石切場は古代遺跡のような迫力を残していて見る者を圧倒し、高畠石の石塀で整えられた町並みは全国的にも珍しく、その価値は見直されつつあります。歴史遺産学科の北野准教授は、昨年から『高畠まちあるき』を主催し、月に一度、学生と共に高畠町で高畠石の実態を調査。一軒一軒歩いて訪ねながら、高畠石を使用している遺構や石造物を探し記録、地域住民に聞き書きをしています。
この活動をするためには、地域住民の協力が不可欠。学生の頃から石仏や石碑に興味があり論文を書いていたという、〈高畠石の会〉の遠藤さんは、地域住民とのパイプ役を引き受けてくれています。「高畠石の歴史や道具などの文化を伝えるお手伝いができて喜んでいます。町内の人でも若い人は、高畠石に対して興味を持てていないので、その価値を理解できていません。文化を知れば、世代間のコミュニケーションを上手くとれるようになり、町も元気になるのではないでしょうか。1人や2人の想いではできないことを、芸工大と一緒に成し遂げていけるのは大変嬉しいですね。いい役割をいただいたと思っています」という遠藤さん。数名ずつの班に分かれて活動する学生を案内し、訪問するお宅に挨拶をして、円滑に『高畠まちあるき』が進むようにサポートしていました。
これまでの調べで、高畠石は境界石や土留め石として多く利用されているほか、基礎や屋敷明神、石臼など多様な使われ方をしていることが分かってきました。高畠石には調査の度に発見があり、高畠に暮らす人々の生活風習や考え方まで窺い知る手がかりにもなるそうです。北野准教授は「高畠石を調べることで、歴史と採掘技術、道具類だけでなく、石を再利用しながら使い続けていることも分かってきました。限りある資源を持続的に使用していく、これからの生き方につながる部分もあると思います」と語っています。また、高畠まちあるきは、"地域の人と関わり、ゆっくり歩くことで見える宝物を実感する活動"であるとして、ありふれた日常の風景の中に価値を見つけ、その土地らしさを伝えていくことが目的のひとつ。歴史遺産学科3年の會田智美さんは、『高畠まちあるき』に参加して2回目。「集落の中で高畠石に関わっていた方は、1人か2人だろうと思っていたのですが、全く違っていました。家族や親戚が石工だったり、貯えとして高畠石を持っていたり、高畠町の人の生活は様々な形で高畠石と結びついていたんです。同じ山形にいながら、高畠石を知らなかったのが不思議なくらいです」と語る會田さん。高畠石を通して、人と自然と文化のつながりをひもとき、失われつつある価値を新たな世代へとつなぐ活動だと言えそうです。