『ひじおりの灯2013』点灯日程と、募集のご案内。

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                 HIJIORI Light Project 2012: Kozaki Masatake

▶概要
『ひじおりの灯2013/HIJIORI Light Project 2013』
会期:2013年7月27日[土]→9月16日[月・祝]
会場:山形県最上郡大蔵村肘折温泉

主催:肘折地区、東北芸術工科大学
企画:肘折温泉プロジェクト実行委員会+東北芸術工科大学美術館大学センター
協力:大蔵村、肘折青年団、柿崎建具店(木枠)、斎藤高子(表装)
学生指導:辻けい、柳田哲雄、若月公平、中村桂子、宮本武典、他
出展:東北芸術工科大学大学院生・卒業生有志、テキスタイルコース4年生、版画コース1年生、肘折地区
招待出展:坂本大三郎(山伏/イラストレーター)
イベント:『肘折絵語り・夜語り』2013年8月10日[土]18:30〜

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▶募集1:灯ろう絵の出品者 定員10名
『ひじおりの灯2013』の灯ろう絵制作者を募集します。自然豊かな肘折へのスケッチ旅行と、肘折地区への皆さんの聞き書きを経て、月山和紙にそれぞれの思い描く『ひじおりの灯』を描いていただきます。作品はその後、庄内地方の熟練した建具職人の手で灯ろうに仕立てられて、約1ヵ月半、温泉街に飾られます。

【参加条件】
・東北芸術工科大学の大学院生(美術専攻)
・取材合宿、中間報告会、『夜語り』に必ず参加できる方(※下記スケジュール確認)
・責任をもって締切までに作品を仕上げることができる方
・ひじおりの灯経験者の参加希望については、新規メンバーの参加具合をみて調整させていただきます。

 

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▶募集2:ひじおりの灯 案内人
『ひじおりの灯2013』の点灯中、灯ろうの管理や清掃、Twitterやブログでの現地リポート、肘折青年団が運営する屋台『肘折黒』のサポートをしていただきます。肘折温泉に訪れるお客様と『ひじおりの灯』をつなぐ、要の仕事です。ボランティアですが滞在中は肘折地区のご厚意により、宿泊費無料・朝夕の食事付きです。

【参加条件】
・学部3年生以上
・過去に『ひじおりの灯案内人』を務めたことがある経験者。リピーター大歓迎!
・過去(2007〜2012)に『ひじおりの灯』を描いたことがある方も。
・1週間以上、肘折温泉に滞在が出来る方
・『中間報告会』『夜語り』『灯ろう設置』になるべく参加できる方(※下記スケジュール確認)

 

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▶スケジュール
5月:参加者説明会(学内)、月山和紙紙継ぎ講習
6月:取材合宿(6/1[土]、2[日]、3[月])、中間講評会(学内)
7月:灯ろう絵締め切り、建具店に表装依頼(上旬)/灯ろう設置作業/点灯開始(7/27[土])
8月:『肘折絵語り・夜語り』(8/10[土]18:30〜)
9月:点灯終了(9/16[月・祝])


 【お申込み・お問合せ】
美術館大学センター事務局 立花まで
※事務室に直接お越しいただくか、メールでお申し込み・お問い合わせください。
メール:tachibana.yasuka@aga.tuad.ac.jp
東北芸術工科大学 学生会館2F事務室 

募集締切:2013年4月30日(火)まで 定員になり次第募集終了) 

 

ひじおりの灯2012より↓

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ウェブマガジン『コロカル』に掲載

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マガジンハウスが発行しているウェブマガジン『colocal』(コロカル)は、
全国各地に存在する文化や食、自然、人、宿、ものづくり…などのローカルな情報を、
さまざまなテーマに沿って、地域独自の魅力として沢山発信されているサイトです。  
 肘折温泉についても、年明けから特集が組まれました。

 

Local Action #017  「肘折温泉vol.1 今も残る美しい手仕事」

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 Local Action #019  「肘折温泉vol.2 肘折の新しい観光ルート探し」

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Local Action #023  「肘折温泉vol.3 これからのあたらしい湯治」

ピクチャ 1 

手仕事の継承、新たな観光ルート探し、人と人をつなぐ「湯治場」のこれからの姿…をテーマに、
月山若者ミーティング』にゲスト出演してくださった坂本大三郎さんと地元・肘折青年団らによる、
肘折温泉でのあたらしい試みが、全3回の記事になって紹介されています。
ぜひご覧ください。

 また、コロカルさんには昨年の夏、月山若者ミーティングについても取材していただきました。

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Local Action #006 「月山若者ミーティング 山形のうけつぎ方・前編」
Local Action #007 「月山若者ミーティング 山形のうけつぎ方・後編」

 前編・後編の大ボリュームで、フォーラムで行われたトークの様子や
「ひじおりの灯」プロジェクトについても紹介していただいています。
こちらもあわせてご覧いただければ幸いです。

 

立花泰香(美術館大学センター事務局)
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 また、余談になりますが、2月に芸工大の大学院生や卒業生のみなさんと一緒に
地面出し競争 World Cup in 肘折』に参加してきました。

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会場は肘折温泉街のすぐそば、集落を見下ろす位置にある「旧肘折小中学校」のグラウンドです。
この日の為に、県内外から30チームが集まっていました。
積雪380cmを超える雪を、スコップとスノーダンプで掘り出し、地面に辿りつく速さを競います。
地面を出す=“春を呼ぶ”。 春を誰よりもはやく呼んだ人が優勝です。

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芸工大からは2チームに分かれて参戦しました。
交替しながらひたすら掘りつづけますが、なかなかスムーズに進まず
ようやく土にお目にかかれたのは、開始から一時間後でした。

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他のチームをおさえてトップに輝いたのは地元・肘折青年団の皆さん。
記録は…“11分25秒”という、大会初のタイム。神業にしか思えない技術です。

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『地面出し競争 World Cup in 肘折』は4度目の開催になりますが、
競技自体は、肘折地区で何十年も大人や子ども達に親しまれてきた
雪上運動会」のプログラムのひとつだったそうです。

大会を終え、温泉街を歩くと旅館や商店はどこもしっかりとした雪囲いがしてあり、
水路からはお湯の蒸気がホクホクと昇っていました。

今度の「ひじおりの灯」取材で大学院生達と一緒に伺う時には、
月山からの涼しい風や残雪のあいだから芽吹いてくる野草たち、
そしてあったかいお湯と、元気な温泉街の人々が迎えてくれるのだと思うと、心がうきうきしてきます。 

 

立花泰香(美術館大学センター事務局)

大蛇のような橋

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この夏、7回目の点灯となる『ひじおりの灯』の打ち合わせで、雪解けの肘折温泉郷に行ってきました。
分厚い雪壁に覆われた「湯の台」から一気にカルデラ盆地に車で駆け下りると、
集落の入口に曲がりくねった巨大な橋がかかっていました。
その名も、「希望(のぞみ)橋」。
昨年春の地滑りで崩落した斜面にかかる仮設のラーメン橋です。

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*「ラーメン橋(ラーメンきょう)」とは?……橋梁形式の一つであり、主桁と橋脚・橋台を剛結構造としたものである。ラーメンは『骨組み』を意味するドイツ語のRahmenに由来するもので、 英語ではRigid frame bridgeと称する。

 ご覧の通り、今もこれだけ雪が残る肘折ですから、
橋がなければ集落は生活道路を絶たれ、雪の壁に囲まれた陸の孤島と化していました。
今日から除雪がはじまった迂回路が開通し次第、
ラーメン橋は再び七ヶ月の工事期間を経て正式に完成します。

 2008年の肘折小中学校閉校、2011年の東日本大震災による風評被害、
2012年の記録的大雪に生活道路の地滑り…… 苦難が重なる肘折温泉ですが、
地区の人々は逞しく、前向きで、夏の『ひじおりの灯2013』をどう楽しむか、
地区代表の須藤秀一さん、つたや肘折ホテルの柿崎雄一さん、
肘折青年団の隆一君、寛人さん、旅館青年部の皆さんと、
あれこれ作戦会議をしてきました。

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それにしても、このラーメン橋の偉容には圧倒されます。
橋のたもとに流れる小松淵には、大蛇にまつわる有名な民話も残っていて、
まるで巨大なオロチが銅山川から這い出しているかのよう。
H鋼で組まれた無骨な姿だからこそのプリミティブな迫力があります。
この橋の異形の姿もまた、むかし退治された大蛇の物語のように、
自然と人間の関係を示す象徴的な光景として後世に語り継がれることでしょう。

 

宮本武典

報告|月山若者ミーティング~山形のうけつぎ方

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 Photo:Hiromi Seno

西村佳哲さん(リビングワールド代表)をファシリテーターにお迎えし、真夏の肘折温泉で開催した『月山若者ミーテング』。霊峰・月山のふもとで、5名のゲストから「うけつぐ」をテーマにお話を伺いました。西村さんの穏やかなリードのもと、若き山形の担い手たちの決意や切実さ、故郷への愛情が装飾のない言葉で引き出され、「うけつぐ」を可能にする実践的なアイデアも含みつつ、それでいてパーソナルな言葉や共感に充ちた、素晴らしい会になったと思います。

西村佳哲さん(左)

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映画『よみがえりのレシピ』より/渡辺智史さんより提供

最初の話者、渡辺智史さんは、東北芸術工科大学在学中に山形国際ドキュメンタリー映画祭で世界の優れた監督たちの作品に触れ、映画監督を志しました。現在は故郷・庄内を拠点にドキュメンタリー映画の撮影を続けています。2008年に肘折温泉を舞台に映画『湯の里ひじおり〜学校のある最後の1年』を監督しました。
この日、渡辺さんの言葉で印象的だったのは、今日の社会・世界を考える「学びのツール」としてドキュメンタリー映画を捉え、上映会後には専門家を招いたオープンなトークをおこない「僕たち自身のセルフラーニングの場として活用しています」というお話。渡辺監督の『湯の里ひじおり〜』や、新作『よみがえりのレシピ』では、映画製作の市民サポーター制度、実際の撮影、上映会などの巡業を続けていくなかで、草の根的な市民コミュニティーがつくりあげれていて、ドキュメンタリー映画×地域という新しい街づくりの可能性を示しています。
また、「震災後に感じている変化は?」との西村さんの問いに対し、渡辺さんは、震災以降、庄内ではfacebookを介した「学び」のネットワークがひろがり、エコロジー、農、修験、食文化などにまつわる、様々な交流やイベント開催されるようになったと話してくれました。渡辺さんの映像は、こうしたSNSによって活性化する「つながりの場」と連動しながら、今後も庄内文化圏における重要な「学びのツール」として機能していくでしょう。個人的には、いつか『湯の里ひじおり〜』の続編を期待したいです。

山形ガールズ農場代表の菜穂子さんからは、「名字の〈高橋〉をあえて名乗らないのは、農業を従来型の家族経営ではなく、ちゃんと採算のとれるビジネスとして成り立たせるという決意の表明」など、経営の視点も含んだ、力強い「うけつぐ」お話を伺いました。
横浜国立大学卒業後、すぐに家業の農業を継いだ菜穂子さん。山形の農業を守っていくためには、農文化の伝承に加え、若い人が働いてきちんと日々の賃金を得られるあたらしい仕組みをつくっていかなければと、起業家としての奮闘を続けています。
また、菜穂子さんは大学で教育心理学を学んだことから、家庭の食卓を守っていくために子どもたちへの食育に力を注ぎたいと考えています。現在準備中の、農場スタッフのサポートが受けられるレンタル菜園を軸に、教育や観光とのマッチング事業にこれからの農業の可能性を模索していきたいと話してくださいました。

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早坂隆一さん(肘折温泉街で撮影/2011年)

早坂隆一さんは、北海道大学でシステム工学を学び、大手電気メーカーでエンジニアをしたのち、家業の『そば処 寿屋』を継ぐため肘折温泉に帰ってきました。肘折青年団のリーダーとして『ひじおりの灯』をはじめとする東北芸術工科大学との連携プロジェクトや、地域のスポーツ交流などで村内の若者交流を担っています。
渡辺監督の映画『湯の里ひじおり〜学校のある最後の1年』で記録されているように、早坂さんを中心とした肘折青年団の活き活きとした恊働の姿は、旅館や商店を継ぐために村に帰ってくる「あとつぎ」の大きな支えになっています。
「湯治客や学生さんなど、外の人たちの肘折での体験が、ここの魅力をつくっていくと感じています」と早坂さん。閉鎖的な農業共同体ではなく、もともとオープンな温泉地の気質は「受け入れる」ことに寛容で、それは僕たちのように外からやってくる人々だけでなく、一度村を出た若者たちにとってもありがたいことなのでしょう。
山奥の湯治場・肘折温泉には、他の同規模の温泉地が驚くほどたくさんの若者たちが暮らしていて、地域のための仕事を進んでしています。それは早坂さんのおおらかな人柄やリーダーシップによるもの大きいのではないかと、お話を聞いていて改めて思いました。

月山志津温泉で、実家の旅館『変若水の湯 つたや』広報を務める志田美穂子さんも、海外のアウトドアブランドを扱うショップに勤務していましたが、東日本大震災を機に東京から山形に帰ってきた人です。3.11はひとつのきっかけで、以前から「どこで生きるのかではなく、どう生きるのかが大事だよ」という(東京から志津に嫁いだ)母親の言葉や、月山山麓の豊かな自然、幼い頃に通った分校での記憶が、都市生活のなかで年々大きくなっていったと言います。
他の3名とは違って、「うけつぐ」ために故郷に帰ってきたばかりの志田さんの言葉は、その一つひとつから自身の選択を噛み締めるような、静かな決意が伝わってきて、会場の学生たちに強い印象を残しました。

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志田美穂子さんからお借りした子どもの頃の写真

最後にお話を伺った坂本大三郎さんは山形出身ではありませんが、羽黒山伏の修行体験記となっている著作『山伏と僕』(リトルモア刊)を通して、僕たちが知らなかった月山文化や山伏たちの自然観、その今日的な意義に光を与えてくれています。
坂本さんによると、山伏はかつて「ヒジリ(日知り)」と呼ばれ「ヒジ」のつく地名は彼らが集団で住みついた土地に多く、周辺に複数の鉱山跡があり、また月山への信仰が厚いことから「肘折温泉はヒジリ=山伏たちの集落」だと。これには僕も眼からウロコでした。

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また、坂本さんは現在の儀礼化・慣習化した山伏文化だけでなく、彼らが「ヒジリ」と呼ばれていた頃のありように強い関心があるとも言っていました。踊りや歌など、この国の芸能・芸術の起源につながるヒジリの異形の文化を探るため、坂本さんはもう何十回も肘折を訪れ、周辺の原生林に分け入っているそうです。
坂本さんの「うけつぐ」は、地縁・血縁ではなく、芸術家の起源としての山伏です。今年の『ひじおりの灯』で、月山周辺の野性的な自然に出会い、灯ろうを描いた学生たちは、坂本さんの山の思想に大きな刺激を受けたようです。さっそく来月初旬に坂本さんに案内してもらって、肘折温泉の若衆と周辺の修験の古道を歩くツアーが企画されました。

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以上で、西村佳哲さんのファシリテートによる『月山若者ミーティング』は終了。その後、日が暮れた温泉街で学生たちによる『肘折絵語り・夜語り』(ひじおりの灯解説)が開催され、さらにツアー終了後には5人のゲストを交えた懇親会が日付がかわるまで催されました。
僕はざわめくみんなの語りを聞きながら、酩酊する意識のなかで『ひじおりの灯』を入口にした『月山芸術祭』の妄想を楽しんでいました。月山周辺の野山を旅し、古刹を訪ね、それらを守りながら生きる若者たちに出会い、一緒にお酒を飲み、霊湯につかり、音楽や映画やアートにふれる夏のスタディツアー。「きっとこの人たちとなら、できるな」、そう確信できるほど、月山周辺に生きる若者たちのバイタリティーはすごい。
彼らを中心に、山形はこれからもっともっと面白くなると思いますよ。

宮本武典(キュレーター/東北芸術工科大学准教授)

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『ひじおりの灯2012』点灯しました。

本日7/28より『ひじおりの灯 2012』の点灯がはじまります。(※特設サイト→http://hijiorinohi.com/)肘折温泉が開湯1200年を迎えた2007年から、今回で6度目の開催です。昨日は朝から学生たちと肘折に入り、青年団にも手伝ってもらいながら、温泉街のすべての旅館と商店・飲食店に『ひじおりの灯』を設置(34基)しました。また、今年は木造の旧郵便局舎内に過去5年間に描かれた灯ろう絵の一部を再展示しています。2009年の企画『ART×TOUJI』から3年ぶりの局舎オープンです。ゆっくりじっくり肘折時間にひたってください。肘折青年団による屋台カフェ『肘折黒』も、局舎前で営業しますよ。

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2008年の大蔵村立肘折小中学校閉校、2011年の東日本大震災、そしてこの春に起きた地滑りによる生活道路崩落…。この小さな湯治場にとって『ひじおりの灯』スタートからの6年間はけっして平坦ではありませんでしたが、この夏も『ひじおりの灯』は、湯守たちの里を静かに照らします。

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『灯ろう『ひじおりの灯』が点灯するまで』

庄内の伝統の技〈組子〉でつくられています。
八角形の木枠は建築家の竹内昌義氏(東北芸術工科大学教授/みかんぐみ)による設計、組み立ては鶴岡の建具職人の手によるものです。側面にぐるりと貼付ける絵に対して、影になってしまう内側の骨は極限まで細くつくられているなど、庄内の伝統工芸〈庄内組子〉の繊細な技にぜひ注目してください。現在の『ひじおりの灯』は、2007-2008年につくった34基を補修と貼り替えをくりかえして大切に使用しています。また木枠を上から見た形状を『HIJIORI Light Project/ひじおりの灯』のロゴマークとしています。

2泊3日の〈滞在制作〉で肘折を学びます。
雪解けの頃になると、東北芸術工科大学(山形市)の学生たちが、夏に飾る『ひじおりの灯』を描くために肘折温泉にやってきます。はじめの年は日本画を学ぶ大学院生だけで描きましたが、現在は洋画、版画、テキスタイルなど、様々な専攻から学生有志が集まり、肘折での滞在スケッチや「聞き書き」を通して湯治場の暮らしや歴史を学んでいます。2人組になって温泉街の旅館に分宿し、うち1名が泊まった宿の灯ろう絵を、もう1名が商店や飲食店を担当します。『ひじおりの灯』は正規の授業ではありません。学生の宿泊費は肘折地区が負担し、学生は灯ろう絵を地区に残していきます。

 〈月山和紙〉に肘折を描きます。
『ひじおりの灯』の灯ろう絵は、すべて〈月山和紙〉に描かれています。手漉き和紙は自然な風合いが魅力ですが、絵具のにじみや発色の具合が精練された和紙とは大きく異なるため「はじめの一筆を入れるときはとても緊張する」と学生たちは言います。同じ和紙の上に岩彩やアクリル絵具だけではなく、染色や銅版画など様々な技法・画材で描かれています。昼と夜で絵の見え方がまったく変わる仕掛け灯ろうもあり、温泉街の人々はもちろん、常連の湯治客も「今年はどんな灯ろうが出てくるか?」と、点灯を心待ちにしています。

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温泉街で点灯。夜の風景が変わりました。
かつての肘折温泉は名物の朝市にあわせて商店もはやく閉まり、夜はひっそりしていましたが、夏の間は夕食後に『ひじおりの灯』を鑑賞する湯治客で賑わうようになりました。『ひじおりの灯』の点灯期間中は、学生が1名〈案内人〉として温泉街に長期逗留し、灯ろうの管理やお客さまへの案内を担当しています。ぜひ気軽に声をかけてください。灯ろう絵を描いた学生が自作の灯ろうを解説する灯ろう鑑賞ツアー『肘折絵語り・夜語り』の夜は、温泉街が朝まで街づくり談義で盛り上がる『ひじおりの灯』のハイライトです。

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『肘折絵語り・夜語り』
日時=8月11日[土]18:30→21:30/案内人=宮本武典
温泉街にずらりと並ぶ灯ろう『ひじおりの灯』を、作画者の解説つきで鑑賞していく夜のトークイベントです。暮れていく温泉街を浴衣姿でそぞろ歩きながら、34個の灯ろうをゆっくりと巡っていきます。

【同時開催】
月山若者ミーティング 『山形のうけつぎ方』
働き方研究家・西村佳哲さんを『ひじおりの灯2012』点灯中の肘折温泉にお招きし、山形の若きカルチャーリーダーとともに「震災後の東北・山形をどう受け継ぎ、活かしていくか」をじっくり語り合います。農業、温泉、コミュニティー、信仰、食文化の担い手たちが、それぞれの継承の現場で感じている「可能性」や「課題」をシェアし、地域の未来を拓く手がかりを探ります。

日時=8月11日[土]14:00→17:30(入場無料/予約不要)
会場=肘折いでゆ館ゆきんこホール
ファシリテーター=西村佳哲(働き方研究家/リビングワールド代表)
ゲスト=渡辺智史(ドキュメンタリー映画監督)、坂本大三郎(イラストレーター/山伏)、菜穂子(山形ガールズ農場代表)、志田美穂子(月山志津温泉)、早坂隆一(肘折温泉青年団)

西村佳哲(にしむらよしあき)
1964年東京生まれ。リビングワールド代表。建築分野を経てコミュニケーション・デザインの仕事を重ねる。働き方研究家としての著書に『自分の仕事をつくる』など。

今年の灯籠絵を納品しました。

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肘折温泉郷に設置する『ひじおりの灯』の、今年の新作が描き上がりました。
完成した28枚の灯籠絵は、鶴岡市の柿崎建具店に送られ、表具師・齋藤高子さんの工房で八角の木枠に貼られています。

6/27に大学で実施した中間講評会には、丁寧な取材(聞き書き、スケッチ、大下絵etc.)を感じさせる作品が並びました。平面の状態と、木枠に貼って光を入れたのでは印象はまったくちがうのですが、講評会を見るかぎり、今年は特に力作が期待できると思いますよ。

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中間講評に立ち会ってくださった辻けい教授(テキスタイルコース)は、「今年は、とてもよい現地取材をされている院生が多くて感心しました。このプロジェクトは〈作品の質〉は〈取材の質〉によってつくられることを実践的に学べる貴重な機会ですね」とコメントされました。
まったく同感です。

肘折温泉を盛り上げる、地域活性化プロジェクトとしてはじまり、定着した『ひじおりの灯』。この大学にとっても「地域にアートで関わること」の質やシキタリを世代ごとにきちんと継いでいく、ある種の地域文化として育っているように思います。

大学と湯治場という2つのコミュニティーが、互いによい影響を与えながら深まっている。
今年の点灯まで、あと3週間です。

宮本武典(美術館大学センター准教授)

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あたらしい灯を迎える準備

『ひじおりの灯 2012』ポスターのデザインが完成しました。
今年は作品そのものではなく、温泉街の中心に建つ木造の旧郵便局舎や、肘折青年団の屋台『肘折黒』など、点灯中の臨場感が伝わる写真をあえて選びました。地元の人々との交流こそ『ひじおりの灯』の醍醐味です。

週明けに印刷して山形県内はもちろん、全国各地に郵送します。
観光交流や街おこし、アートと地域に関わる施設・団体で、ポスターを貼り出していただけるところ、募集中です。県内外に関わらず、ぜひメールください。
美術館大学センターのメールフォーム

『ひじおりの灯』は、毎年あたらしい絵に張り替えています。
先週、美術館大学センタースタッフの立花泰香さんと、版画コース4年の千田若菜さんが、旧肘折小中学校校舎に保管されている2011年度の灯ろう絵を剥がしてきました。

剥がし終え、骨だけになった『ひじおりの灯』は、鶴岡の柿崎建具店に運ばれ、学生たちの絵の仕上がりを待ちます。

『ひじおりの灯』に使用している和紙は、西川町の三浦一之さんが手漉きしている月山和紙で、木枠への表具は鶴岡の表具師・齋藤高子さんに毎年お願いしています。和糊で丁寧にピンと貼られているので、コツさえつかめばスルスルときれいに剥がすことができます。
手漉きの和紙は伸縮するのに、一ヶ月も屋外で飾っていても、紙が割れたりよじれたりしないのは、実はすごいこと。『ひじおりの灯』は、山形の職人さんの技術に支えられています。

剥がした灯ろう絵はすべて大切に保管し、一部は額に入れて飾っています。左の紫の作品は、現スタッフの立花泰香さんが大学院生のときに『ひじおりの灯』に参加して描いたもの。5年前の『ひじおりの灯』です。

一方、東北芸術工科大学のアトリエでは、学生たちが作画の準備にとりかかっています。大学院の演習や夏のコンクールと並行しての制作なので、前期の課題が一段落したこれからが描画のピークになります。

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灯ろうの木枠にぐるりと貼る和紙の幅は2メートルちかくになります。手漉きの和紙ではその幅はとれないので、『ひじおりの灯』の制作はまず和紙を「継ぐ」ことからはじまります。日本画や版画を学ぶ学生なら、和紙の扱いは日頃から慣れたもの。繊維をほぐしながら、手際よく継いでいきます。

先輩から後輩へ、職人さんから学生へ、そして最後は地域の人へ――。
手から手へ丁寧に継がれている『ひじおりの灯』。毎年、下処理を終えた白い和紙に「最初の一筆」を入れるのはとても緊張すると、学生たちはいいます。一筆一筆が、たくさんの人の技術や想いに連なっているという、凛とした緊張感は、若い彼らが画家になる上で、とてもよい体感・勉強だと思うのです。

宮本武典(キュレーター/美術館大学センター准教授)

初夏の肘折スケッチブック

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田中望さんのスケッチブックより(※以下の写真も同じ)

5/26-27-28と、6/2-3-4の2回に分けて、今年の『ひじおりの灯』を描く学生・卒業生たちによる取材旅行がおこなわれました。2日目の夜には、周辺を散策し、地元の人々の話を聞いて感じたことを、灯籠絵のプランドローイングにまとめて発表します。

肘折温泉に向かう前に、僕から学生に以下のメッセージをメールでまわしました。

「取材旅行は3日間ですが、初日は場所決めや温泉街散策、2日目も少し足をのばしての軽いトレッキングがあるので、個々人の取材時間は実質〈半日+α〉です。2日目の夜の灯籠絵プラン発表会は、地区の皆さんも参加し、毎年楽しみにされています。短い時間ですが、全身の感覚を研ぎ澄まして、灯籠絵のイメージをつくってください。これは、大学院生だから可能な行程だと思っています。また、このプロジェクトは、担当する旅館や商店のみなさんとのコミュニケーションが、成功の鍵になります。良いコミュニケーションを心がけてください。自分が語るよりも、聞き上手になってください。厳しい自然を切り開いて生きている人々に敬意をもってください。そして、肘折の人々にも、みなさんの普段の作品を理解してもらう必要がありますから、作品ファイル(ないしはそれに准ずる資料)を必ず持参してください。僕は発表会から合流します。みなさんがどのような物語を聞き、それを自分なりにどう変換して絵物語るのか、楽しみにしています。」

発表会は深夜まで、およそ3時間に及びましたが、どのプランも興味深いものでした。去年、評判がよかった日向かほりと佐藤真衣の作品が影響を与えていたのかもしれませんが、現実の肘折温泉の風景を背景に、動物や植物、もののけの類がいきいきと交わり脈動する『鳥獣戯画』のようなスケッチが多かったですね。学生たちの発表を聞きながら(ビールも飲みながら)、萩原朔太郎の小説『猫町』を連想したりしました。

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現在の田中望さんのアトリエ。明日、参加者に月山和紙が配られ、灯籠絵の描画がスタートする。

前のブログでも書きましたが、崩落による迂回路はかえって葉山・月山の美しい山並みを楽しむことができ、山の奥へ奥へと蛇の背中のようにうねりなが続く峠道の「行き止まり」に、パッとひらかれる肘折温泉郷。黒い山肌に雪と新緑をまとったその姿に、学生たちは俗世とは離れた「かくれ里」のような印象をもったのかも知れません。
図鑑や、もしくは絵葉書的な絵がこれまでの『ひじおりの灯』には多かったのですが、今年は肘折温泉という舞台で、そこに暮らす人々が森羅万象とともに交わる、夏の夜にふさわしい幻想的な絵物語になりそうです。

宮本武典

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取材旅行の様子(美術館大学センタースタッフ立花泰香さんの撮影)

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残雪の肘折温泉へ

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肘折温泉は現在、生活道路の一部が地滑りで崩落し、交通に支障がでています。現場は、ちょうど温泉街に下っていく急勾配のカーブで、崩落は今も断続的に続いています。温泉街に沿って流れる銅山川は、この冬が大雪だったため、月山の雪解け水で水量も勢いもはげしく、崩落の土砂で川が塞き止められると集落の一部がダム湖化するおそれがあり、緊張状態が続いています。
(詳細:肘折青年団ブログ→ http://hijiori.jp/seinendan/
昨年の東日本大震災の風評被害、記録的な大雪による交通マヒ、そして今回の地滑りによる生活道路の遮断と、自然の猛威により苦境が続く肘折温泉。崩落が連日ニュースや新聞で大きく報道されていたので、温泉街も閑散としているのではないかと、このゴールデンウィークに、家族で応援を兼ねて泊まりにいきました。

肘折温泉の入口にあたる斜面が崩落したため、ずっと川下にある「塩」という集落のY字路を、いつもとは逆にハンドルを切り、反対の尾根をつたって温泉街を目指します。しばらく走ると、舞踏家の森繁哉さんの古民家劇場「すすき野シアター」に到着しますが、そこから先は冬期は閉鎖される高低差の激しい峠道。僕は肘折にはもう6年通っていますが、はじめてのルートです。

報道で「迂回路」と呼ばれているこの峠道は、そんな形容は似合わない、美しい景観が楽しめるルートでした。まだ1.5メートルはある雪の層から靄が立ちのぼり、その背景に黒い山肌と、ブナの萌黄が見えます。ところどころ山桜も咲いていました。肘折ホテルのご主人・柿崎雄一さんによると、晴れていると月山や葉山がとても美しく見えるそうで、温泉街の人々も、季節のよい頃は、車窓からの景色を楽しむために、わざわざこのルートを通るそうです。ちなみに、肘折温泉の桜の開花は札幌とほぼ同じだそうです。

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まだ雪囲いが解かれていない『すすき野シアター』。その奥に旧南山小学校柳淵分校。

閑古鳥が鳴いているのではと心配していたのですが、迂回路を抜けて温泉街にいざ到着してみると、さすがゴールデンウィーク、賑わっていました。ざっと見たところ、山形県内よりも県外からの湯治客が多いようで、肘折には珍しく都会から来たらしい若者のグループも見かけました。僕たち家族が定宿にしている肘折ホテルは県外ナンバーで駐車場は満杯、大きな玄関にもずらりと靴が並んでいます。福島の少年スポールクラブがスキー合宿に来ているようでした。

娘たちにとって宿の主人・柿崎さんは「親戚のおじちゃん」のような存在。絵本を読んでもらってます。

滋味ぶかい湯につかり、美味しい山菜料理をいただいて、夜は肘折ホテルのカウンターで、地区の若者たちと、この夏の『ひじおりの灯』について、そしてこれからの肘折温泉について語り合いました。ここで『湯の里ひじおり』を撮り、現在は『よみがえりのレシピ』が好評上映中の渡辺智史監督も加わって、夜が更けるまで杯を重ねました。聞けば、崩落が起こってからもう何人も、かつて『ひじおりの灯』に参加した卒業生たちが駆けつけてくれたそうです。

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柿崎さんは、「去年・今年と、どうしてこう大変なことばかり続くのか…」と嘆きつつも、「宝永6年(1709年)から享保13年(1728年)の間に、集落が全焼する大火が3度もあったそうです。それでも村を再建して、今でも住みつづけているというのは、よほどここに魅力あるんですね。ご先祖に負けないように、僕らも頑張りますよ」と。頑張る人たちのいるところだから、また会いにきたくなる。ここだから「お疲れさま」が染み入る。今年の『ひじおりの灯』も、ぜったいに成功させたいなぁ。
これからますます新緑は美しく、山菜もおいしくなる肘折温泉郷。新年度スタートのギアを少しゆるめて、湯治場で骨休めはいかがでしょうか?

宮本武典

『ひじおりの灯2012』点灯日程と募集のご案内。

▶概要
『ひじおりの灯2012/Hijiori Light Project 2012』
会期:2012年7月28日[土]→9月17日[月・祝]
会場:山形県最上郡大蔵村肘折温泉
主催:肘折地区、東北芸術工科大学
企画:肘折温泉プロジェクト実行委員会+東北芸術工科大学美術館大学センター
協力:大蔵村、肘折青年団、柿崎建具店(木枠)、斎藤高子(表装)
学生指導:石井博康、辻けい、山崎和樹、三瀬夏之介、宮本武典、他
出展:東北芸術工科大学学生・卒業生有志、テキスタイルコース4年、肘折地区有志
招待出展:鴻崎正武(画家/東北芸術工科大学専任講師)、他
アドバイザー:赤坂憲雄(福島県立博物館館長)、森繁哉(舞踏家/民俗学者)
イベント:『肘折絵語り・夜語り』2012年8月11日[土]18:30〜

▶募集1:灯ろう絵の出品者
『ひじおりの灯2012』の灯ろう絵制作者を募集します。自然豊かな肘折へのスケッチ旅行と、肘折地区のみなさんへの〈聞き書き〉を経て、月山和紙にそれぞれの思い描く『ひじおりの灯』を描いていただきます。作品はその後、庄内地方の熟練した建具職人の手で灯ろうに仕立てられて、約1ヵ月半、温泉街に飾られます。
【参加条件】
・東北芸術工科大学の大学院生(絵画系・VCD)もしくは卒業生
・過去(2007〜2011)に『ひじおりの灯』を描いたことがある方←リピーター大歓迎
・取材合宿、中間報告会、『夜語り』に必ず参加できる方(※下記スケジュール確認)
・責任をもって締切までに作品を仕上げることができる方

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▶募集2:ひじおりの灯 案内人
『ひじおりの灯2012』の点灯中、灯ろうの管理や清掃、Twitterやブログでの現地リポート、肘折青年団が運営する屋台『肘折黒』のサポートをしていただきます。肘折温泉に訪れるお客様と『ひじおりの灯』をつなぐ、要の仕事です。ボランティアですが滞在中は肘折地区のご厚意により、宿泊費無料・朝夕の食事付きです。
【参加条件】
・過去(2007〜2011)に『ひじおりの灯』を描いたことがある方
・過去に『ひじおりの灯 案内人』を務めたことがある経験者←リピーター大歓迎
・1週間以上、肘折温泉に滞在が出来る方
・『中間報告会』『夜語り』『灯ろう設置』になるだけ参加できる方(※下記スケジュール確認)

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▶スケジュール
5月:取材合宿(5/26[土]、27[日]、28[月])
6月:中間講評会(中旬を予定)
7月:灯ろう絵締め切り、建具店に表装依頼(上旬)/灯ろう設置作業/点灯開始(7/28[土])
8月:『肘折絵語り・夜語り』(8/11[土]18:30〜)
9月:点灯終了(9/17[月・祝])

【お申込み・お問合せ】美術館大学センター事務局 立花まで
※美術館大学センターに直接お越しいただくか、メールにてお申し込み、お問い合わせください。
メール:tachibana.yasuka@aga.tuad.ac.jp 
募集締切:2012年4月27日(金)まで

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