東北復興支援機構 | TRSO

石川直樹写真展 『やがてわたしがいる場所にも草が生い茂る』


石川直樹写真展
『やがてわたしがいる場所にも草が生い茂る』

2012年6月1日[金]―7月31日[火]
東北芸術工科大学やまがた藝術学舎

東北復興支援機構は、写真家・石川直樹が、震災後の風景の変容を記録した写真展『やがてわたしがいる場所にも草が生い茂る』を開催いたします。2011年3月10日、新聞紙面で石川直樹の土門拳賞受賞が報じられた翌日に、東日本大震災がおきました。石川は授賞式への出席を辞して、2日後には支援物資を携えて被災地に入りました。本展の写真群には、震災直後に撮影された岩手県宮古市を中心に、定期的に同地を訪れた石川の、風景の変化を追う眼差しが記録されています。
世界の名だたる山々の頂きに立ち、極地を踏破してきた写真家は、自然の猛威がすべてを奪い去った後の人間の風景に、何を見て、感じたのか? 同時期に東北芸術工科大学ギャラリーで開催されるもうひとつの石川直樹展、『異人 the stranger』展とあわせてご高覧ください。

ぼくができる唯一のことはまず動くことだった。断片的な情報に振り回されるのではなく、自分の目でそれを確かめ、自分の言葉で伝える。物資をもって被災地に行くことを決めたのは、震災から二日後の朝である。
 青森の三沢空港から八戸に入り、太平洋沿岸を車で南下した。瓦礫の山が道を塞いでいるため、行けるところまで行って、あとはただ歩くしかなかった。雨に打たれながら、雪に足をとられながら、砂塵に巻かれながら、荒野と化した被災地を歩いていると、あらゆる感情がこみあげてくる。
 迂回を繰り返しながら海岸沿いを車で岩手の宮古市まで南下していくと、やがて国道45号線が通行止めになっている現場に出くわした。山中なので、その先に何があるか見当がつかない。ぼくは車を停めて雪に覆われた山を下り、歩いていくことにした。道路は湿った雪に覆われて、歩くとしゃりしゃりという音がした。坂を下っていくと、右手に壊滅した田老の風景が飛び込んできた。時間が止まったかのようなその光景が現実であることを教えてくれるのは、容赦なく降り積もる雪である。言葉を失ったあの瞬間のことは、今でも忘れることができない。
 宮古市田老地区には、日本で最大規模の津波防潮堤があった。高さ10メートル、総延長2.4キロという堤は、田老地区の市街地を海から守るようにそびえ立っていた。津波はその城壁のような防潮堤を乗り越え、家屋を押し流し、破壊しながら、市街地をのみ込んだ。 
 以降、ぼくは定期的に、田老に通った。6月半ば、瓦礫はだいぶ片付いてきたが、地面にはまだゴミが散乱し、取り壊されていない家屋もいくつかあった。
 半年が経過した9月、瓦礫も少なくなり、家屋の土台が露出して目に見えるようになっていた。夏が終わり、秋に入ろうとする中で、緑が目立つようになる。時間の経過とともに、この地にも草が茂りはじめた。
 今年1月に四度目となる撮影を行った。半壊した建物は軒並み取り壊され、新たな建物がいくつか建てられていた。田老ふるさと物産センターがプレハブ小屋で営業を再開しており、お菓子や地域で作られた食品が棚に並べられていた。
 あれからもうすぐ一年が経とうとしている。雪は溶け、地面を埋め尽くしていた瓦礫は完全に取り除かれようとしている。街は防潮堤や家の土台を残して更地になり、海面は平穏を取り戻している。しかし、田老地区は地盤を1メートル以上も底上げする工事をすることになっているために、住民はまだまだ元の場所に帰ることはできない。近隣のグリーンピア田老や仮設住宅で借り暮らしをしている人々も多くいて、復興への道のりは遠い。
 何があろうとも、世界はそこに在り続ける。たとえぼくが死んでも世界はそこに在る。言葉が追いつけない涯ての風景を留められるのは、写真しかないと思っている。
                                                           2012年2月/石川直樹

展覧会名:石川直樹写真展『やがてわたしがいる場所にも草が生い茂る』
会  期:2012年6月1日[金]―7月31日[火]10:00 – 17:00(日曜休館/入館無料)
会  場:やまがた藝術学舎(山形県山形市松見町17-1)
主  催:東北芸術工科大学東北復興支援機構TRSO
企画協力:ニコンサロン
アクセス:山形駅前5番バス乗り場[ヒルズサンピア行き]に乗車し松見町バス停で降車
イベント:石川直樹アーティスト・トーク(聞き手:宮本武典)
     2012年6月29日[金]14:00 – 15:30

石川直樹|Naoki Ishikawa
1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。2000年、Pole to Poleプロジェクトに参加して北極から南極を人力踏破、2001年、7大陸最高峰登頂を達成。人類学、民俗学などの領域に関心をもち、行為の経験としての移動、旅などをテーマに作品を発表し続けている。2006年、写真集『THE VOID』により、さがみはら写真新人奨励賞、三木淳賞。2008年、写真集『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。2009年、写真集『Mt.Fuji』(リトルモア)、『VERNACULAR』(赤々舎)を含む近年の活動によって東川賞新人作家賞。2010年、写真集『ARCHIPELAGO』(集英社)にて、さがみはら写真賞。最新写真集に『CORONA』(青土社)がある。著書に『いま生きているという冒険』(理論社)、『全ての装備を知恵に置き換えること』(集英社文庫)、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。2011年に第30回土門拳賞受賞。


【同時開催】
石川直樹 異人 the stranger

会  期:2012年6月1日[金]―6月30日[土]
会  場:東北芸術工科大学本館7階ギャラリー
主  催:東北芸術工科大学
協  力:水と土の芸術祭実行委員会
企  画:東北芸術工科大学美術館大学センター
ウェブ :http://www.tuad.ac.jp/museum/
関連情報:石川直樹アーティスト・トーク
     日時=2012年6月29日[金]16:30 – 18:00
     会場=東北芸術工科大学本館7階ギャラリー(入場無料)