世界は幼なじみではない―幼なじみ萌え補遺3:広く浅くどこまでも

 どこをどう切っても研究書であってはいけない。ということは編集から言われた大前提として存在していた。この点は書き手としては、なかなか難しい問題で、学術論文のような内容を書くことはできない。しかしながら「一般向け」というターゲットもまた簡単なようで、「一般」という概念は結局、何でも当てはまることになる。つまり「広く、浅く」という内容で良いのだろうか。

 生前に文芸学科に来られていた松智洋さんが「自分の作品に対して浅いや薄っぺらいと評されることが多いが、それは逆に深いマニア的な読み手に対して届けようとは思っていないからだ。なので、そのような評価は逆に自分の作品がぶれていないことになる」のようなことを述べていて、感心したことがある。今回の『幼なじみ萌え』は別に松智洋さんに従っていったわけではないが、この本を入口として学問や物事を考えることに繋げるようにと心掛けて書いていった。したがって「薄い」と思った人は、それは正解と言えるし、その感想を抱いたあなたは優秀な人物といえる。

 さて、それでも「一般」って何? という疑念が解消されたわけではない。「一般」というのは誰でも当てはまるといえば当てはまるわけで、逆に当てはまらない人はそれこそ研究者や評論家、もしくは幼なじみマニアの方々ではないだろうか。マニア向けではない、としたときに、編集さんと話していたのは「大学を卒業して数年後に何となく手に取って、忘れていた向学心に火をつける感じで」というものであった。そのために文章中に参考文献をカッコ書きで入れるということもしている(上手くいっているかはわからないが)。したがって本書を読み、足りない点を学術論文として世に出していきたいと思った方は、ぜひ各雑誌に投稿していただきたい。

 テレビではちょうどM-1グランプリが放送しているが、特にこのオチのない文章をつらつらと書き始めてしまった自分自身を反省している。まあ、要は自分自身が一番薄っぺらいということである。

世界は幼なじみではない―幼なじみ萌え補遺2:乙一と物語論

 「もっと作者を前面に押し出してほしい」と編集に言われてしまったのは、だいたい第1章から第5章を書き上げたあたりであった(『幼なじみ萌え』の目次はこちら)。書き始める前に言われていたことは「学術論文のようには書かない」、「一般向けに書くこと」の2点ぐらいであったので、淡々と「幼なじみ」に関するフィクションを歴史的にざっと追っていったことになる。そこまでは否応もなく、事実を並べていくので、平易に書こうが何をしようがある程度は単調になる。しかし、そこを通過したら、その手法は通用しないということを、やんわりと伝えられたのである。

 さて困った。皆さんが頷くかどうかは置いておいて、論文は慣れているので特に書くことでは困らない。論文の内容や文体を崩していくことも一連の流れの中でできる作業であろう。しかし書き手自身が、その文章におけるテーマよりも前面に出てくることは、実は未経験である。より具体的に言えばblogを書いていた学生時代には、それが出来ていたのかもしれないが、現状、自分の名前で発表している文章はそのようなことを想定していないものばかりである。困った。

 そこで思い出したのは、作家の乙一が自分自身の創作理論を書いた文章である。日本推理作家協会編『ミステリーの書き方』(幻冬舎)に掲載されているものなのだが、そこでは極めてシンプルであるがゆえに高度な話が書かれている。シド・フィールドを中心としたハリウッドの脚本術がベースになっているため、まずはそちらを理解したほうがいいのかもしれない(ちなみにシド・フィールドの『映画を書く~』は2のほうがまとまっている気がする)。ハリウッドのほうは俗に三幕構成と呼ばれている理論であり、乙一はそれを発展させて真ん中の第二幕を二つに割っている。脚本術では第二幕が間延びしないように真ん中にミッドポイントを設定し、作者がそれを意識して、そこに至るまでとそこから第二のプロットポイントまでを書いていくのだが、ミッドポイントは単なる指標として考えられている。乙一の場合、物語を4つに分ける。となると間に3つの物語の転換する場所(乙一は変曲点としている)が存在することになる。したがって、物語のスタートとゴールを決めたら、変曲点でぐるぐると曲げていくとよい。ということになる。ミッドポイントも曲げてしまうのだ。

 いや、できないよ。これができたら苦労しないよ。変曲点で物語を動かしていくことを簡単にできるように書いているが、実際取り組んでみると難しい。物語の一本の紐に例えると最初は真っすぐだったものを変曲点と決めたところで、ぐにゃっと曲げるわけだ。結果として三回も曲がったジェットコースターが出来上がる……。のだが、多くは曲げすぎて紐が切れたりする。もしくは曲げの角度が小さくて、ジェットコースターに乗っているお客さんが物足りない感じになってしまう。2017年度後期のゼミでも乙一の小説を読んで検討したのだが(読んだのは別ペンネーム中田永一の作品)、「シンプルでわかりやすいが、やはり難しい」という結論になってしまった。

 この話と『幼なじみ萌え』と何が関係するのかというと、乙一は文章の中でこの理論はエッセイなど小説以外でも使えると書いていたのだ。なるほど、使えるかもしれない。そこで恐る恐る第6章以降、諸々考えながら書いていったのだ。もちろん右から左に乙一に従ったのではなく、文章量や内容を考えて変曲点(自分の頭の中では転換点と呼称していた)の数を変えたりしていたし、あとは経験値からくる勘(というか癖)もそのまま出した。もう一つのポイントとしては論文の場合、最初に取り組むであろうテーマ設定はそのままなのだが、書き出しを大幅に変更した。通常の論文の書き出しは、研究の学術的・社会的意義や先行研究の検討になるのだが、それは辞めにしたのである。「学術論文ではない」と言われていたので、そのフォーマットに従う必然性が元々なかったというのもある。あと転換点を生み出すには、別にスタートが当初の想定通りである必要性はない。曲げられないなら、曲がるようにスタートの位置を変えればいいのではないか。というわけで、この『幼なじみ萌え』の第6章以降は、そのような感じで書いていった。上手くいっているかどうかは実際に読んで欲しい。

 さて賢明なる人なら気付いたであろう。作者自身を文章の中で感じられるようになるかどうかは、これとはまた別の話なのである。

世界は幼なじみではない―幼なじみ萌え補遺1:対極に位置する『アシガール』―

 一時期から時代劇はもうオワコン(終わったコンテンツのこと)であると耳にするようになった。確かに水戸黄門や暴れん坊将軍、大岡越前は地上波から姿を消し、今の学生が時代劇に接する機会は大河ドラマに集約されてしまったような気がする。しかし、それほど簡単に消え去っているようには思えない。BSまで含めれば、時代劇は今もまだ現役で存在するし、映画や漫画、小説では多くの作品が世に送り出されている。まあ、こう見えて歴史好きではあるので、時代劇となったら右から左に見てしまうのだが、一つ一つを精査していくと時代劇という範疇でありながらもそのターゲット層は大きく違っているように思える。最近だと『赤ひげ』は叙情的であろうとしているのか、届けようと考えている年齢層は少しだけ高く、それに対し幅広いレンジで考えていたのが『みをつくし料理帖』ではないだろうか。さらに若い人でも視聴可能であったのが『鼠、江戸を疾る』なのかもしれない。二期で小袖ちゃんのキャストが変わったのは悲しかったが、少女が小太刀で可憐な立ち回りをすることが非常にツボだったので、心の中でガッツポーズをしていた。

 何が言いたいのかというと最近、『アシガール』が楽しみで仕方ないのだ。ドラマを見た瞬間に「これは面白い」となり原作を買いそろえるまでに至ったのはいいが(原作は森本梢子による漫画作品)、「ここで原作マンガを読んでしまうと話の続きがわかってしまう!」と思い、まだ積読状態である。そしてなぜか全8話だと勝手に勘違いしており、先週の放送が終わったら一気読みするつもりだった。しかし、まさかの次回予告の放送が行われてしまった。全12話だそう。いや、まさかでも何でもなく自分が悪いだけなのだが。そして毎週、ドラマを見ながら何を考えているのかというと、物語の次の展開を考えている。提示されたキャラクターと物語展開から、次はどう動いていくのかを考えていくだけで非常に楽しい。

 この楽しさは極めて限定的なものともいえよう。この物語の普遍的な楽しさはどこにあるのか。『アシガール』という作品は、やる気のない女子高生である主人公が、ある時、天才でありながらも引きこもりの弟が発明したタイムマシンにより戦国時代にタイムスリップしてしまったところから物語が始まる。そこで出会った領主の息子(超絶イケメンの若殿)に一目ぼれして、彼女は足軽となり、若の側で仕えようと画策していく。タイムマシン(小太刀型)を使うことで、制限は生じるのだが現代と戦国時代を主人公は行き来することはできる。そうか、往年のNHKで描かれてきたジュブナイル作品っぽいから受け入れられているのだ。個人的に青春アドベンチャーで味わってきた、ここではないどこかにふわっと浮遊できる感触がこの作品にもある。タイムトラベルは面白いなあ。と納得していた。

 しかし数話を視聴していると、それは違うのではないかという疑念が頭をもたげてきた。もちろん要素としては存在しているであろうが、タイムトラベルはガジェット的なものでしかない。小太刀を抜いて、次第に体が消えていき、気付いたら現代の倉庫の部屋(というのか?)にいた、となっても別にときめかない。この作品の一番の良さは、そのような目につくものではなく主人公のキャラクターではないだろうかと最近、考えを改めている。なぜなら物語の構図はそれほど奇抜なものではない(少なくとも今のところは)。主人公が目的に向けて、一直線に体当たりしていくことに対し、何かしらの障害が設定され、それを苦難とともに乗り越えていく。って普通だ。書いてしまうと普通だ。でも面白い。この主人公の真っすぐさが、まさにジュブナイルなのだ。まぶしいぐらい、てらいなく一目ぼれした若に向かっていくという姿勢は、10代の特権なのかもしれない。そして時に男性に扮し(というより唯之助のシーンのほうが多いかもしれない)、「あーもうなんで」と言いながら、取り組んでいく主人公を好演している黒島結菜の力かもしれない。どこか既視感のある女優さんだったが、時かけの人であることに最近気づいた。

 主人公の唯の一目ぼれに対する姿勢は、清々しい。生まれてから得てきた地縁的関係、学校制度に組み込まれて作り上げていった人間関係どころか血縁関係すらも、逡巡することなく捨て去ろうとしている。何が言いたいのか、お分かりだろうか。彼女の一目ぼれは「幼なじみ」を瞬殺してしまうのである。「幼なじみ」は本人の意思とは関係なく、生まれたときや少なくとも社会的な生活を送る前段階に形成された地縁関係に依拠することが多い。『アシガール』の主人公の唯はそれを一刀両断して、戦国時代に躊躇なくタイムトラベルしているのだ。彼女は本人の意図することなく「生まれてきて住んでいるから」という理由で築き上げられてきた関係性を、自分自身の意志で捨て去ろうとしている。彼女の強固な意志の前には、「幼なじみ」など霧散してしまう。って全く『幼なじみ萌え』の販促になっていない文章を書いてしまったが、タイムトラベルをするだけのエネルギーがなくなってしまい、戦国時代に戻れない状況をいかにして打開していくのか。今週末の9話が楽しみである。

『幼なじみ萌え』の目次はこちら

玉井建也『幼なじみ萌え』(藝術学舎)が発売になります。

2017年11月29日に『幼なじみ萌え』が発売になります。書店やネットなどでお見掛けした場合、手に取っていただければ幸いです。なお、表紙イラストは『恋は雨上がりのように』でおなじみの眉月じゅんさんです。大変素晴らしい表紙です。

補遺はこちら(補遺1補遺2補遺3補遺4補遺5

玉井建也『幼なじみ萌え ラブコメ恋愛文化史』
四六判、並製本、232頁
発行 京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎
発売 株式会社 幻冬舎
定価 本体1300円+税

可愛いのになぜ勝てない!? 恋愛小説の歴史を追いながらラブコメにおける幼なじみの位置づけを分析、日本の文化史・恋愛史を読み解く。

【あらすじ】
隣家に住む幼なじみの同級生が朝起こしにくるシチュエーションは、果たして理想なのか。またどれほどの確率で主人公と結ばれるのだろうか。本書では幼なじみを切り口として前近代から分析することで、日本の文化史・恋愛史を解き明かしていく

【目次】
序章 幼なじみのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!
   ―またはこれは言ってみりゃ「単なる序章」
第一章 起源論オーバーラン!
    ―またはこれは言ってみりゃ「前近代から近代までの幼なじみの話」
第二章 ラブコメの弾丸は撃ちぬけない
    ―またはこれは言ってみりゃ「近代以降に描かれた幼なじみの話」
第三章 物語にラブコメを求めるのは間違っているだろうか
    ―またはこれは言ってみりゃ「漫画に描かれる幼なじみの話」
第四章 ククク、私の幼なじみを見抜くとは、アナタも「瞳」の持ち主のようね(訳:この章では幼なじみがゲームにおいて選択肢化されていく過程を考えます)。
第五章 幼なじみのいうことを聞きなさい!
    ―またはこれは言ってみりゃ「ライトノベルとゲームと松智洋の話」
第六章 幼なじみとは違う一日
    ―またはこれは言ってみりゃ「上京をめぐる物語」
第七章 幼なじみ一〇〇人できるかな その一
    ―またはこれは言ってみりゃ「教室内における空気の話」
第八章 幼なじみ一〇〇人できるかな その二
    ―または言ってみりゃ「教室社会と幼なじみの話」
第九章 この素晴らしい幼なじみに祝福を!
    ―またはこれは言ってみりゃ「地元と幼なじみの話」
第十章 スクールが虹でいっぱい その一
    ―またはこれは言ってみりゃ「教室内の共同体とライトノベルの話」
第十一章 スクールが虹でいっぱい その二
    ―またはこれは言ってみりゃ「教室内の呪縛と物語の話」
第十二章 幼なじみの名は。
    ―またはこれは言ってみりゃ「聖地巡礼の話」
第十三章 転生したら幼なじみだった件
    ―またはこれは言ってみりゃ「異世界ものと他者理解について」
第十四章 ストップ!! 幼なじみくん!
    ―またはこれは言ってみりゃ「男装・女装・性転換の物語」
第十五章 我が家の幼なじみさま。
    ―またはこれは言ってみりゃ「擬人化・境界・団地」
第十六章 「ただの幼なじみには興味ありません」
     ―またはこれは言ってみりゃ「空間の超越と幼なじみ」

 

再び文芸部大会で講義をしました

本日、福島県高等学校文化連盟文芸専門部大会に専任講師の野上が参加し、特別講義を行いました。

講義では「文芸誌を「編集」する」というテーマで、本の編集とはどういうことか、原稿をどのようにブラッシュアップするかなどについて、編集者の視点から語りました。

校正・校閲のワークショップも行い、高校生の皆さんには刺激になったことと思います。

写真を撮る余裕がなかったため、帰り道で食べた喜多方ラーメンをアップします。

文芸学科では高校でのイベントなどに講師を派遣いたします。

ご希望の高校教員・関係者の皆さまは「お問い合わせ」よりご連絡ください。

 

DSC_0566
DSC_0566

文芸部大会で講師をしました

去る10月19日(木)〜20日(金)、山形市の山形テルサにて、第19回高等学校文化連盟全国文芸専門部北海道・東北文芸大会山形大会が行われました。
高校の文芸部が一同に集まるこの大会に、文芸学科から山川健一教授・石川忠司教授・野上勇人専任講師の3人が参加し、講義を行いました。

散文分科会で小説プロットの講評をした山川健一教授・石川忠司教授
散文分科会で小説プロットの講評をした山川健一教授・石川忠司教授
高校生の俳句を読む石川忠司教授
高校生の俳句を読む石川忠司教授と野上勇人講師
文芸部誌分科会で「文芸誌のつくり方」を講義する野上勇人講師
文芸部誌分科会で「文芸誌のつくり方」を講義する野上勇人講師

北海道・東北の多くの高校生に向けて、文芸学科での授業同様の講評・講義を行いました。高校生の皆さんの真剣な眼差しが印象的でした。

文芸学科では、こうした文芸部会や高校での出張講義を積極的に行なっています。

ご興味のある高校の先生方はぜひお問い合わせください。

『文芸ラジオ』トークイベント 声優 平田広明さん公開インタビューのお知らせ

下記のように文芸ラジオの公開インタビューを行います。入場無料ですので、ぜひともご参加ください。

『文芸ラジオ』トークイベント 声優 平田広明さん公開インタビュー
日時:9 月16日(土)16:30~
場所:東北芸術工科大学 本館201(入場は3階からになります)
参加費:無料

主催:東北芸術工科大学 芸術学部 文芸学科「文芸ラジオ」編集部
協力:2017 芸工祭実行委員会

Profile◆平田広明(ひらた・ひろあき)
声優、俳優、ナレーター。『パイレーツ・オブ・カリビアン』(ジャック・スパロウ役)、『ONE PIECE』(サンジ役)『宇宙兄弟』(南波六太役)、『TIGER & BUNNY』(ワイルドタイガー/鏑木・T・虎徹役)などの吹き替えやアニメ作品で活躍。

「それでも僕たちは歩き続けるの、探し続けるの」

 よく雨が降り、風の吹く一日だった。今年の8月は例年よりも忙しく、前期授業終了後も採点、集中講義と続き、そのままお盆休みに突入してしまった。授業終了後の翌日がコミケ初日である。これはコミケ基準でなくとも、おかしくないか、と思うのだが、論理的に説明するよりも感情論が前に出てしまいそうである。そもそもコミケ初日には参加していないので感情も何もない。

 夏季休暇に入り、東京の自宅で過ごしているが、それほど暇になったわけではなく、コミケへのサークル参加、打ち合わせや会議、仕事の文章書きなどに忙殺されている。あとドラクエ11では勇者として仕事もしており、こっちのペースは遅い。勇者であるという事象に対し誰も疑問を示さないので、痣が光ればよいのなら勇者詐欺が蔓延してもおかしくない世界である。オーブを集めたので、そろそろ行かなきゃと思いながら、大事を前に小事である各地のクエストを消化しているので、勇者としての事務能力と処理能力の低さがここにある。そのような感じで、雨の続く東京を過ごしている。

 さて前期を備忘録のように振り返ると、今期は「物語に触れること」に注力した。何しろよほどの天才でないと「知らないものを書くこと」はできない。物語はメディアの差はあるが、細かいパーツに分割することができ、それをどう組み合わせていくのかが試される。もちろんキャラクター造形と物語構造は別物であるし、それぞれをどう切り取って、読み取っていくのかもまた違ってくるので、言うほど単純な作業ではないのは、その通りなのだが、まずは知ることから始めよう。そう考えて、今期はスタートした。したがって昨年度から開講している漫画ゼミでは、とにかく読むことを進めていった。これは教員としても実は大変な作業で、通常のゼミでも小説を一冊読み、漫画ゼミでは数十冊の漫画を読むことを毎週やっていると、「なぜ、こんな筋トレを……」みたいな感情が生まれてくる。以下は漫画ゼミの記録である(ちなみに通常のゼミの記録はこちら)。

 

・久米田康治『かくしごと』

 全く記録を取っていなかったので、ゼミ生に送ったメールを確認しているのだが、今年度はこれからスタート……? え……。

 

・眉月じゅん『恋は雨上がりのように』

 第二回にして最高の作品を取り上げている。のちにご本人にお会いする機会があり、「第一話が最高です! 過不足なくすべてが描かれていて、一ページごとに完璧です!」と話してしまったが、自分は何様なのだ。

 

・あずまきよひこ『よつばと!』

 初期から最近にかけての変遷とか、描き方の変化とか、コマの描き方とかいろいろと話したが、「あさぎはいいよね」しか覚えていない。誰にも同意されなかったが、あさぎ……。

 

・平野耕太『HELLSING』

 今さらかよ、という声が連続して届きそうだが、好きなものを描くことの追究と探求心の極致がここにある、ということを話した。

 

・古屋兎丸『帝一の国』

 実は読むのが一番つらかった作品。なぜ僕がそう思ったのかはゼミでは伝えたが、菅田将暉が太鼓を叩いているぐらいしか、もう脳内には残っていないし、それは映画版である。しかも映画は見ていない。

 

・柳本光晴『響~小説家になる方法~』

 文芸学科らしい……という体裁で、好きな作品を読んでいくスタイルである。

 

・白井弓子『WOMBS』

 これも同じく好きな作品を取り上げているが、SFに対する取っ付きにくさを少しでも払拭していきたいと常々思っているので、時たまSFを取り上げるようにしている。

 

・市川春子『宝石の国』

 これは構図もカメラワークも何もかも難しい。読むのは簡単でも、これは描けない。という話をした気がする。

 

・カトウコトノ『将国のアルタイル』

 新しくアニメがスタートする作品を読んでいこう第一弾。手探り状態で始まり、長期連載へとつながっていく過程が、物語作りとしては興味深い。

 

・つくしあきひと『メイドインアビス』

 新しくアニメがスタートする作品を読んでいこう第二弾にして最終回。最高。これほどまでにフェチズムに溢れていながら、性的な雰囲気を出さないのはすごい。そして2年ぐらい前に学生たちにこの作品を紹介したとき、「こんなマニアックなの読みませんよ……」と言われたのは、今でも忘れていない。

・荒川弘『鋼の錬金術師』

 前期最終回は最高の長編漫画を読もうぜ、というコンセプト。歌舞伎の見得のようなポージング、セリフ回しすべてが巧妙に計算されて、ダサくないのが素晴らしい。物語構成も微小と大局とを作者が完全に把握しているのがわかるので、読んでいて、感心しかしない。

 

BGM:miwa「Chasing hearts」

文芸ラジオブックス、スタート

文芸学科の学生作品を中心に発表する電子書籍レーベル「文芸ラジオブックス」がスタート!文芸ラジオブックスロゴ

文芸学科では、かねてより学生・教員が多数執筆・編集に参加する文芸誌『文芸ラジオ』を年1回制作しております。このたび、その電子書籍レーベル「文芸ラジオブックス」が4冊の新刊タイトルでスタートいたしました。

 文芸学科生の作品を中心に、学科や『文芸ラジオ』に関わりのあるプロ作家・アマチュア作家による作品が、KindleやiBookstore、楽天Koboなど国内20以上の電子書籍店舗でダウンロードが可能です。なお流通は電子書籍取次のモバイルブック・ジェーピーを通じて行われます。

 皆様ご高覧くださいますよう、何卒よろしくお願いいたします。

 

[文芸ラジオブックス 第1弾 4作品]

01_hyoushi

 

 

 

 

 

 

 

星屑のブロンシュ

丸山千耀 著

文芸ラジオ新人賞受賞作「星屑のブロンシュ」を含む珠玉の短編集!

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友殺しの剣

平野謙太 著

「文芸ラジオ」に掲載された著者初の時代小説集!

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光と闇のボーイ・ミーツ・ガール

佐藤滴/大川律子/塩野秋/成田光穂/山川陽太郎 著

「出会い」をテーマとしたアンソロジー第一弾!

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友殺しの剣

 

 

 

 

 

 

 

どこかでオオカミが哭いている

森田一哉

80年代に活躍した「誰がカバやねんロックンロールショー」を率いたダンシング義隆の半生を描いたノンフィクション。

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[取材・内容お問い合わせ]

東北芸術工科大学 文芸準備室 文芸ラジオ編集部 野上勇人

E-mail bungeiradio@gmail.com

「汗をかいて走った 世界の秒針が」

 根本的な問題として、読書量が足りないのではないだろうか。学生を教えていて覚える違和感の根源が、この点だろうと最近、ようやく気付いた。とはいえ、読書などは放置していても、寝食を忘れて勝手に読み始めるものとばかり思いこんでいたので、言わないと読まない(もしくは物語を摂取しない)ことには頭が回らなかったというべきかもしれない。そこで今年度からは大学4年間で最低でも1000冊は読もうと言っている。最低レベルであるし、1日1冊読まなくとも、たどり着ける数字である。楽勝。

 1年生は1週間に1短編を授業で読んでいる。ということは3年生のゼミではそれ以上に様々なものを読むべきではないかと思い、今年度はできる限り毎週のゼミで小説を一冊読もうとしている。たまに他の事をしているので、毎週というわけにはいかないが、少しでも蓄積の足しになればと考えている。何せ、自分の中にないものを生み出そうとすることは、ごく少数の天才にしかできないし、本当に天才なら大学の授業など関係なく勝手にやっている。

 

カルロ・ゼン『幼女戦記』

アニメ化されたものを読もうというどうでもいい理由から出発した。個人的には興味関心のポイントが全く合わず、「ああ、アニメを違和感なく見られたのは上手い脚本と演出なんだなあ」と思う羽目になった。とはいえ作者の好きなポイントとそれを受け取る読者のポイントが合致しているという意味では間違ってはいないので、その点は考えるべきだと思う。

 

七月隆文『僕は明日、昨日のきみとデートする』

実写映画化されたベストセラーを読むんだぜ。という理由で選んだわけだが、いろいろと考えさせられた。時代が求めている空気を上手く読み取り、SF的要素で味付けしていったという意味では、ピンポイントで読者が咀嚼可能なものを提供するというプロの仕事ではある。なお以前、授業で梶尾真治の短編を取り上げたことがあったのは付記しておこう……。

 

野崎まど『パーフェクトフレンド』

みんな! 正解するカドは見ているかい!

 

上遠野浩平『あなたは虚人と星に舞う』

 2000年代初頭にまで、うじうじと残っていたセカイ系の作品群から一つ選んだわけだが、うじうじしているから読んでいてつらくなる。内省的であることは時代的な要請であったのかもしれないが、時間が経過するだけで簡単に劣化してしまう。しかし逆にいうとエンタメとはこうあるべきなのかもしれない。

 

多崎礼『夢の上』

 ここで一つファンタジーを読もうとセレクトした。ハイファンタジーの難しさは世界観の理解をいかにスムーズにしていくかが一つの要素のような気がするが、若いころに読んだときと今とではまたその能力も変化しているのだと痛感した次第。

 

馬場翁『蜘蛛ですが、なにか?』

 思っていた以上に面白かったので驚いた作品。個人的にセレクトした理由は、乙一がtwitterで言及していたからであった。物語が一直線になりがちなところを、様々な工夫で読者を飽きさせないようにしているので感心させられたのと、物語の構成がやはり連載前提になっているのは大きく違うものだと考えていた。

 

支倉凍砂『狼と香辛料』

 言わずもがなの大ヒット作品。今、読んでも非常に面白い。これを新人で書いていたのか、と思いつつ、ゼミでも少し述べたが、クライマックス部分は普通のアマチュアは商談成立とともに握手するシーンを持ってきてしまう。しかし、それでは読者層との乖離が大きくエンタメとしては何も意味しない。

 

川原礫『ソードアート・オンライン』

 これは今度のゼミで読む。

 

 以上のようにゼミで読む作品はエンタメに特化しているので、それ以外を読みたい場合は自力で探してほしい。エンタメばかり読んでいるから楽しそうに思えるかもしれないが、自分に合わなくても読み続けなければならないのは苦痛でしかないので、見た目ほど手を抜くこともできないし、楽しくもない。その先に通じる自らの創作や評論にまで目を向けたとき、はじめて立体化し、体感できるものである。

 

BGM:LiSA「Catch the Moment」