g*g Vol.19 WINTER 2012
東北芸術工科大学 文化財保存修復研究センターが、白鷹町文化交流センター〈あゆーむ〉より受託調査の依頼を受け、仏像の写真撮影記録と制作年代の調査を実施しました。対象となったのは、白鷹町指定文化財の仏像などが安置される塩田行屋。センター研究員が主体となり、学生や卒業生による体制で、文化遺産を所有・管理している地域の方々と連携した地域密着型の実践を行いました。
昭和5年に廃寺になり、所有者の高齢化で管理が止まっていた塩田行屋は、調査に入った時、お堂の仏像は埃がかぶり虫害も見られた状態でした。現地に入り掃除と応急処置を行った、美術史・文化財保存修復学科4年の斉藤友佳理さんは、「今回の処置であと10年ほどは現状が保てますが、所有者の渋谷さんは既に高齢で管理が難しい状況です。これからどのように管理していくはまだ決まっていません。このままではまた同じ状態になってしまうのでは」と不安を感じています。それを受け、センター研究員の岡田靖講師は「文化財と銘打つだけで管理や援助までしてくれない現状の文化財保護制度では、掃除などの簡単なことでも継続的にやっていくのは難しい。京都や奈良のように管理が行き届いているのは、ほんの一部だけです。代々管理してきたからという理由で、若い世代に昔と同じような管理を求めるのは難しい。こういった現象は全国で見られ始めています」と、地方の文化財が抱える問題点を指摘しました。また、調査に参加した院生1年の石井紀子さんは「東北の歴史や文化を担い、受け継いできた高齢者の方々から、直接お話を伺う事が難しい状況になってきています。今回の調査で、現存する仏像がどんな仏像なのかを知っておくことはとても重要だと思いました。失われる前に手を尽くしたいです」と、危機感と意欲をにじませました。
塩田行屋の所有者で、代々管理を務めてきた渋谷さんは当初、調査が入ることに対してあまり快く思っていなかったといいます。「文化財に指定されても、それを目当てに来た人を寺まで案内するのもひと苦労。展示などをすると盗難の心配もでてくるので、本当はやりたくなかった」と語る渋谷さんの心を動かしたのは、町おこしに貢献しなければという意識と、研究員や学生が真摯に調査や掃除に取り組む姿でした。「芸工大の皆さんが、これだけ献身的に丁寧に塩田行屋を扱ってくれて感謝感激です。今までは、こんなもの、と思っていた仏像も、時間をかけて掃除や応急処置をしてもらったり、詳細な調査のよって不明な歴史が解明されたことで、歴史の1ページが増えたように貴重に感じています。本当にありがとう」。
今回の調査では、安置されている明治期の仏像の大半が、山形市出身で近代彫刻の大家である新海竹太郎の父、新海宗慶の制作であることが新たに確認され、その中の木造如意輪観音坐像の台座部分には新海竹太郎の銘も発見されました。卒業生である宮本晶朗さんが学芸員を務める白鷹町文化交流センター〈あゆーむ〉では、前述の如意輪観音坐像などを中心に展示した「白鷹町の仏像展① 塩田行屋の仏たち」展を開催。1,000人以上の来場者を迎え好評を博しました。宮本さんは「町に指定文化財があってもそれを知らない人は多いです。地域の歴史文化を、まずは知ってもらおうと思い展覧会を企画しました。ただ古いものがありました、というのではなく、生まれた場所のことを知ってもらい町に誇りを持ち、人口流出に歯止めをかけることが、文化施設としての役割だと思っています」と語っています。
岡田講師は、修復とは壊れてしまったモノをなおすという、文化財を残していくための方策のひとつで、大切なのはモノが壊れないようにする保存体制をつくることだといいます。「まずは地域に存在する文化財を知ってもらうこと。そして保存活動の現状や、センター、学科の取り組みによって為されたことを知ってもらい、地域の人と行政機関、専門家が多角的に連携をとって一緒に取り組んでいくことが大切です」と語り、今回の活動が継続し成功事例として全国に広がっていくことに期待を寄せるとともに、震災以降より高まった郷土愛やアイデンティティーの拠り所となる地域の文化財に関して、その意義や保存修復のあり方を今一度考え直す時期にきているのでは、と、保存修復の現状に警鐘を鳴らしました。
なおこの取組みは、今後も文部科学省の戦略的研究基盤形成支援事業として継続する予定で、モデルケースとして全国に広がっていくことに岡田講師も期待を寄せています。