g*g Vol.19 WINTER 2012
2011年10月29日から11月23日まで、仙台市松島町にある円通院、瑞巌寺、比翼塚・天麟院、観瀾亭で「松島紅葉ライトアップ2011−希望、灯す。」が開催されました。大学院仙台スクールで学ぶ渡邊英(わたなべはな)さんは、円通院庭園の紅葉ライトアップのイベントコーディネーターを務め、イベントの成功に尽力しました。円通院の美しい庭園をさらに幻想的に魅せるこのイベントでは、光と音のインスタレーションも同時に開催。荘厳な歴史の面影を残す庭園の奥に位置する「禅林瞑想の庭」に歩みを進めると、秋風に揺れる木々の囁きや楽器の演奏に反応して、光の瞬きが波のように広がる幽玄の世界が来訪者を迎えました。蛍火を思わせる繊細なフィラメントの灯りを使い空間演出をしたのは、西澤高男准教授と、卒業生で仙台高等専門学校に勤務している酒井聡さん。大学院生、卒業生、教授が一堂に会し創り上げたプロジェクトとなりました。
西澤准教授は、「インスタレーションを行った場所は、紅葉しない杉木立に囲まれています。昨年のライトアップではお客さんが足早に過ぎていってしまい、見どころである心字の池に人が溜まってしまうという課題がありました。そこで、自然に近い仄かな光の明滅で庭の奥行きや存在感を際立たせ、場所の特徴が明らかになるようにし、新たな見どころを創り出すようにしました」と語り、イベントの内容を改善し、明るいだけのライトアップではなく、訪れた人が足を止めて心穏やかな時間を過ごせる空間を演出しました。期間中はギターやピアノの生演奏もあり、その合間には現代音楽やクラシック、エレクトロニカなど庭園の雰囲気に合った音楽が響いていました。庭園の雰囲気に合った選曲をしたという酒井さんは、「ライブ感ある生演奏も人気でしたが、音と光だけが存在する空間でその美しさを堪能するのも良かった、という声も寄せられました。今後はライトアップにインスピレーションを受けた作曲家が、この場所に合った音楽を作ったりするのもいいでしょうね」と、インスタレーションの手応えを感じています。
円通院の副住職である天野晴華さんは今回のライトアップについて、若い方に特に好評で、毎年訪れているお客様も年配の方も楽しんでいる様子だったことを伝えてくれました。また、円通院とインスタレーションチームのパイプ役となりスケジュールの進行調整を行うほか、グラフィックデザイナーの経験を活かしてポスター制作、ライティングなど幅広く活躍した渡邊さんについては、最大級の賛辞を贈っています。「彼女はとにかく仕事ができる優秀な方。学校の生徒という枠を越えて、様々な調整を本当によくやってくれました。彼女と一緒に歩んだ時間は長く、戦友のように思っています」と語る天野副住職。渡邊さんは、「観光に興味があり、広告について大学院で本格的に学んでみたいという意識で入学しましたが、まさかここまで深く観光地に関わるとは思っていませんでした。西澤先生や酒井さん、副住職をはじめとして人とのつながりも思った以上に広がりました。大学院には行ってみるものだな、と実感しています」と、明るく語り笑顔を見せました。
震災の打撃が大きく、観光客が例年の3分の1ほどまで落ち込んだという松島。萎むことなく今まで通りに観光地としての基盤を持っていこうと、多くの人が協力し灯した光の瞬きは、訪れた人々に小さな安らぎの時間をもたらしたのではないでしょうか。