g*g Vol.21 SUMMER 2012
エスパル仙台店にある社員食堂と談話室に、鮮やかな色彩のアクリル画3点が新しく飾られました。これは、エスパル仙台店から、NPO法人 東北の造形作家を支援する会(SOAT)を仲介とした依頼で、木原教授指導のもと美術科洋画コースの学生5人が仕上げた作品。完成したのは、瑞々しい緑が印象的な『サラダの森』(4800mm×900mm)、見るだけで心が華やぐ『フルーツの池』(3900mm×900mm)、落ち着きとインスピレーションが同居する『白樺の林』(3000mm×1550mm)。当初、学生1名の作品を採用し制作に入る予定でしたが、学生たちが現場に足を運び空間を把握した上で提出したプランが、いずれも劣らぬ秀作だったため、3名のアイデアを基に描くことになりました。
3つの作品がひとつの空間に収まるように工夫した点は、統一感が出る色彩を使用したことと、大きさが空間に対応するようにしたこと、全ての作品に白いヤギを登場させたこと。それぞれが違う作品でありながら、同じ強さで違和感なく空間に存在しています。利用者からは、それまで殺風景な白い壁と向かい合っていた食事の時間が、絵画があることで明るい雰囲気に変わったと好評な様です。最初、先方からは「食堂にマッチするヨーロッパの風景のような絵を」とオーダーされたと言います。しかし、木原教授は「学生の感性をもっと信用し、ドキドキするようなものを期待してみましょう」と提案。結果、学生ならではのフレッシュな感覚が散りばめられた作品に仕上がりました。『白樺の林』の原案を作った3年生の浅野友理子さんは、「最初は固い絵を描いていましたが、学生だからこそ描ける絵にしようと、遊び心が感じられる白樺の色や模様にこだわりました。観ている人が明るい気持ちになって、新しい発見ができる絵だと感じてくれたら嬉しいです」と語りました。2年生の金山友美さんは『フルーツの池』について、「原画を考える前に食堂を訪問したら、若い女性が多かったので、かわいい、女性らしさが感じられるものを描きたいと思いました。ピンク色を使いフルーツをたくさん描き込んだのはそのためです」と、実際の見聞がアイデアにつながったことを伝えました。
2年生の能登美希さんは、「私は共同作業が初めての体験でした。いろいろな人の手が入ることで自分では思っていない色になっていくのが面白かったです。みんながいたからできた、一人では描けない絵だと思います」と、この5人で制作に当たった経験を貴重なものとして捉えました。
今回の制作にあたり、何度か大鉈を振るった、という木原教授。「特注のパネルができたのが2月20日くらいで、納品は3月20日。3週間程で3点を仕上げるというスケジュールの中、企業からの依頼ということもあり、学生は絵画を描くのではなく原画に忠実にトレースする作業をするようになっていました。そこで、描いている絵の上に絵の具をぶちまけたんです」。『サラダの森』の原案者である2年生の味藤渚さんは、「そこで"絵画なんだ"ということに気づきました。最初はただ一生懸命に原画を写していくことしか考えていませんでしたが、先生のアドバイスがあって、そこから吹っ切れて強くなりました。絵を描く感覚になったんです」と、制作中の体験を振り返りました。辛(かのと)遊理さんも、「大胆に色を置いていくうちに自分が解き放たれて、自由に描いていいんだと思えるようになりました」と語り、「今までは、最初に完成形が決まっていて描いた下書きを崩せなかったのですが、途中で画面を壊すことで、空間ができたりすることを学びました。勉強したことを制作に活かしていきたいです」と、これからの決意につなげました。
木原教授は、「朝から晩までの制作が続く中で、前半は苦しそうに筆を持っていた学生たちが、後半はのびのびとして、画面の中で絵を描く感覚に変わっていきました。あくまで絵画として魅力的でなければならないことに気づけたことも大きな経験だったと思います」と語るとともに、普段個人の作品に打ち込んでいる学生が、空間に合う作品を作り、社会に提示したこと、チームで取り組んだこと、材料の調達から打ち合わせまで責任をもってやり遂げたことを大きな成果としています。