g*g Vol.21 SUMMER 2012
フランス在住のアーティストのジャン=リュック・ヴィルムート氏と西村麻美氏が監督となり、宮城県亘理郡山元町を舞台としたドキュメンタリー作品『Lunch Time』を制作しました。東日本大震災で、瓦礫までもが津波に流された山元町の海岸線を目にした時、ヴィルムート氏は被害の甚大さを感じるとともに、アフリカのような光景に深い印象を受けたといいます。多くのドキュメンタリーが作られている中、アーティストであるヴィルムート氏は、これからも山元町に住もうとしている人々に、命の象徴であるご飯を食べながら津波の記憶を蘇らせながら話してもらおうと考えました。「あるものをただ撮ろう、何かを創ろうという発想ではなく、私たちが考えている舞台で、住民の方と一緒にパフォーマンスをする感覚で制作しました。何もなくなった場所に、命だけ残った人が来た時に何がおこるのか。舞台を作っているのはフィクションですが、彼らが話したことは本当のことです。この映画を観て環境に対して繊細な感覚を持ち、被災地の方にも勇気と希望を持ってもらえたら」と語る、ヴィルムート氏。
作品の内容は、震災当日の記憶や現在の生活の様子、町の再生や原発について住民がどのように考えているかを記録し、草木だけが残る海岸線を背景に、大きなテーブルを囲み食事をとる姿がシンクロするものになっています。食事は、震災前、「一番最後に食べたもの」のアンケートをとり、おから、山菜の煮付け、豚汁などを再現。住民の有志の方に手伝ってもらいながら学生と協力して作りました。撮影の中心スタッフとなったのは映像学科の学生たち。「海外の方と撮るのも、ドキュメンタリーも初めてで新鮮でした。学校で学んだことが現場で活かせたこと、撮影をこなせたことが嬉しかったです。今までにない体験だったと思います」と、撮影を振り返った4年の大塚勇人さん。同じく撮影に参加した3年の金森祥子さんは、「技術的にもすごく勉強になりました。何より、ジャン=リュック・ヴィルムートさんと西村さんの2人に合えたことが嬉しかったです。考え方、動きがアクティブではっきりしていたのが印象的。この作品に関わることができて、とても楽しかったです」と、感想を語りました。西村氏は、学生たちの動きについて「しっかりしていたので安心して任せることができました。現地に入っている最中、学生は興奮して夜中まで起きているにも関わらず朝も早く起きていました。撮影が終わったら身体を壊すのではないか、と心配しながらも頼ることが多かったですね。学生も私も、すごく集中して取組めたと思います」と、笑顔で語りました。
作品の中で、住民の方は食事をとりながら未来のことを話します。その話題の多くは、町を二分する線路移転に関することと原発問題。山元町は福島第一原発から50kmの距離にあり、どれだけ再生しようとしても、原発問題があるので元のようには住めないのではないか、という不安を抱えています。こういう状況の中で、私たちはどう生き抜いていくのか。これは山元町だけの問題ではなく、日本、世界という単位で捉えなくてはならない問題であり、『Lunch Time』は、その事実を受け止め、個人レベルで考えていくきっかけになる作品です。監督の2人は、作品を通し、山元町の人々の存在が世界中に知られることを願っています。