g*g Vol.23 WINTER 2013
新たな音楽文化を発信する最初の場所となったのは、山形県西川町にある廃校、旧西山小学校。企画構想学科3年〈SPOOL〉が主体となり取り組んだ「月山青春音楽祭 '12」は、ミュージシャンの寺岡呼人氏の「すべての年齢の人たちがごく普通にライブ会場に足を運び、生活の一部として音楽を愛してくれたら」という想いから始まりました。「最初に小山薫堂教授から寺岡さんの想いを聞いた時は、漠然といい夢だなと思いました。でも寺岡さんと直接話すようになり、その想いに触れるうちに、人の夢というだけではなく、自分も一緒にその夢を実現したい!と、強く思うようになったんです」と語るのは、〈SPOOL〉代表で企画構想学科3年の小山優さん。山形県の廃校密度が全国第一位であるという現状も踏まえ、かつて地域コミュニティの中心であった学校から、年齢とともに音楽イベントに消極的になりがちな日本の現状を打破し、音楽と人の距離を縮める企画を打ち出しました。
2012年11月11日の音楽祭当日は、学校らしく、小山薫堂教授と寺岡氏の「朝の会」からスタート。旧西山小学校の校舎は「出羽三山校舎」として復活し懐かしい表情で来場者を迎えました。各教室では臨場感ある音響でレコードを聴くことができる「オトナのレコード教室」や、子どもも参加できるワークショップを開いた「自由音楽教室」、80年代エレクトロミュージックが教室に鳴り響く「かざらないディスコ教室」など、年代にとらわれず音楽を楽しめる企画が時間割いっぱいに繰り広げられました。給食のカレーや地元ベーカリーのカツサンド、山形名物の駅弁が味わえる「まんま・マルシェ」は10時の開店から賑わいをみせ、人気メニューは完売となりました。担当した企画構想学科3年の中西友里子さんは「協力してくれる企業を募るためにアポをとり、テーマを伝え、プレゼンを通し一致団結して今日を迎えることができました。多くの人が来てくれて嬉しいです」と顔をほころばせました。「自由音楽教室」で楽器づくりの手ほどきをしていた同学科3年の奥山咲希さんも「慣れないことが多く大変でしたが、子どもも楽しめる場所があって良かった、ありがとう、と声をかけられとても嬉しかったです」と笑顔を見せました。
「いもに音楽堂」と名付けられた体育館では、Sing Like Talkingの佐藤竹善さん、シンガーソングライターのKANさん、そして寺岡氏が所属するJUN SKY WALKER(S)のライブを開催。体育館いっぱいに集まった観客の心と会場全体を熱く盛り上げ、「月山青春音楽祭 '12」を訪れた人々の想い出となる忘れ難い時間を創り出しました。会場の出入口で誘導を担当していた同学科3年の齋藤香那さんは、退場するお客様に「ありがとうございました」と丁寧に声をかけ、「どうもありがとう」と返す人々と笑顔を交わしました。齋藤さんは「第一回目ということで成功するかとても不安でしたが、得難い達成感を味わうことができました。沢山の方への感謝の気持ちでいっぱいです」と語り、「月山青春音楽祭 '12」開催のきっかけとなった寺岡氏に感謝の言葉を送りました。
校庭に設けられた「月山青春通り」には、地元商工会青年部や有志による屋台村が並び、芋煮や蕎麦、豚汁や玉こんにゃくなどのあたたかなメニューで来場者をもてなしました。音楽祭開催に向けて準備をしていく中で、〈SPOOL〉代表の小山さんは西川町とのつながりを強く感じたといいます。「最初、開催地を決める時に候補にあがった廃校はたくさんありましたが、西川町ほど親身になって話を聞いてくれた所はありませんでした。私たち学生を応援してくださって、若い人と町が組んで新しい企画を実施することに共感し協力してくれました。〈SPOOL〉では、これからも西川町と何かやっていけたらいいよね、という話にもなっています」。町の人と一緒にがんばりたい、期待に応えたい、来場者がどんな顔でこのイベントに参加し、どれだけいい思い出を作ってもらえるだろうか、そんな想いが「月山青春音楽祭 '12」を作り上げました。今後、〈SPOOL〉が形にした想いは後輩へと引き継がれます。「音楽とは、青春とは、文化をつくることについて想いを膨らませていけば、来年はさらに面白いものができると思います」と、小山さんは後輩たちの活動に期待を寄せました。