g*g Vol.18 AUTUMN 2011

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今年も灯った「ひじおりの灯」。
心の交流スペース『肘折黒』は、今年も大盛況でした。

肘折温泉が東北芸術工科大学と連携し、"湯治文化を100年後に継承する"ために取り組んでいる、芸術・ 文化による地域活性化事業「肘折温泉プロジェクト」は2007年にスタートしました。肘折温泉に連なる旅館や土産屋の軒先に、趣き深い八角形のオリジナル灯ろうが揺れる「ひじおりの灯」も今年で5回目。芸工大で絵画やデザインを学んでいる学生たちがそれぞれの店の特色を描き、手漉きの月山和紙に表現した『肘折絵巻』は8月2日から31日の間展示され、今年も湯治客の目を楽しませました。

左:佐藤さんが制作した羽賀だんご店の灯ろう。雁皮紙を染め切り抜いて貼っていった灯ろうは、だんごの「ぬた」の色が柔らかく動物と世界を囲んでいる。 右:佐藤真衣さん/2006年東北芸術工科大学・芸術工学研究科・芸術文化選考洋画領域(版画)卒業。銅版画家。

昨年参加し、美しい金魚の絵柄が印象的な作品を制作した、芸工大卒業生で銅版画家の佐藤真衣さんは今年も参加。ウサギやイノシシたちがお団子を運んだり食べたりしている楽園のような灯ろう画を描きました。5月に2泊3日で行った肘折温泉での制作合宿の時点では、よりリアルで少しグロテスクな表現だったものを、見ている人が楽しく感じるものに作り変えたという佐藤さん。「震災の体験をした人たちが温泉街を訪れることを考えると、泊まりに来た人たちが思わず微笑んでしまうようなものを作りたいと思うようになりました。灯ろうは、制作者とそれぞれのお店の人たちが話し合い、絵柄などを決めていくのですが、今年はカラフルなものが多かった気がします。全体のテーマを決めたわけではありませんが、訪れた人を楽しませようという共通意識があったのかもしれませんね」。肘折の人々の気さくであたたかい人柄に触れ、すっかり肘折温泉のファンになったという佐藤さんは、制作者が案内人をするボランティア活動にも積極的に参加しています。佐藤さんが感じた肘折の魅力を伺うと、夕方に灯ろうの清掃に向かう時に歩く、小道の風景、夕日の美しさ、子どもたちが灯ろうに集まって楽しそうに動物探しをしている姿など、たくさんのあたたかい情景が目に浮かぶようでした。

早坂隆一さん/地元青年団に所属し肘折地区を盛り上げる活動に尽力。肘折温泉街にあるそば屋〈寿屋〉を営んでいる。

昨年から「ひじおりの灯」に登場した、制作に関わった学生たちと地元青年団が湯治客と触れ合う屋台『肘折黒』は、昼はインフォメーションブースとして、夜はカフェ&バーとして今年も大活躍。『肘折黒』が街角にあることで、泊まっている旅館から外へ出て、夕方から点灯する灯籠のあかりを楽しむ湯治客が増えたといいます。青年団の早坂隆一さんは「昨年来てくれたお客様が『黒』を楽しみにして、今年も訪れてくれました。天童市から来た88歳の男性は連泊してくれて、毎晩『黒』で昔の想い出話を聞かせてくれました。楽しいからもう一泊延長する、と言ってくれて。また来年も『黒』で会いましょう、と言えるのが嬉しいですね」と語り、肘折温泉に新たに根付きつつある人々の交流に喜びを感じていました。

夕方から営業を開始する『肘折黒』で用意しているのはコーヒーとサイダーとビール。それと、その時々で集まってくる旅館やお店の美味しいものが少しずつ。それでも今年の『黒』は、早坂さんが「もう一ヶ月くらい延長して開店したかったですね!」と言うくらい、去年と比べても大盛況だったとか。「ひじおりの灯」が、灯ろうだけではなく訪れた人々の心にも温かい灯火を灯し、ゆっくりと広がりを見せ始めたのかもしれません。

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