g*g Vol.22 AUTUMN 2012
山形で農業・料理・文化と深く結びつき伝えられてきた在来作物(伝統野菜)。その品目は現在確認されただけで160種にも及びますが、多くは品種改良が重ねられ本来の姿を失いつつある作物。種を伝える後継者の不足も懸念されています。映画『よみがえりのレシピ』は、そういった失われつつある在来作物を地域の"宝物"と位置づけ、生産者や大学、レストラン、消費者、県が一体となって守り、積極的に未来へつなぐ様子から、食へのメッセージを込めたドキュメンタリー作品です。監督は、鶴岡市出身で建築・環境デザイン学科の卒業生である渡辺智史さん。卒業して映画製作会社に入社後、映像作家として独立し、2008年『湯の里ひじおり~学校のある最後の1年』を製作しました。撮影を通し、当事者意識を持って作品に向き合う必要性を感じたという渡辺監督は、地元鶴岡市に移住し『よみがえりのレシピ』の製作に当たりました。
「食べ物の原点である"種"について、なぜ知らなかったのか気づかなかったのか、僕自身そう思うことが多々ありました。農家の方が昔から淡々と続けている生活が少しずつ失われ、やがて途絶えた時に"種"はもう取り戻すことができません。この映画は作為的なナレーションを入れず、農家や料理人や研究者の声に耳を傾け、感覚的に"種"の意味をとらえ思いを馳せてもらえるように製作しました。失われていく生活文化を前に、誇りを持って守ろうとする若者、アピールしていこうとする地域の活力を描きたかったんです」と語る渡辺監督。映画を通して在来作物の今を知ってもらうため、様々な出会いを大切にしながら映画のプロモーションを展開しています。
今回、六本木ヒルズのすぐ東側にある「六本木農園」で開かれたスローフードのイベントに招かれた渡辺監督は、『よみがえりのレシピ』のダイジェスト版を上映後、映画と山形在来野菜について解説。1年の半分は収穫が見込めない土地に伝わる作物の伝承には、食料不足の記憶が根底にあることに触れ、トレンドに終わらず農業の根本を理解する必要性を訴えました。大竹氏は、東京、山形、京都では在来作物の定義が異なることを解説。『よみがえりのレシピ』の映像から、山形の在来作物が「特定の料理や用途(たとえば、祭式や儀礼など) に用いられる作物」「野菜の他、穀物や果樹、花などの栽培植物」とされていることが特徴的であることを述べました。また、意外と知られていない江戸東京伝統野菜が今でも多く存在すること、江戸時代の参勤交代によって地方から多くの種が集められ、また地方に持ち帰られて現在まで栽培されている可能性があることなど、逸話を交えて楽しく紹介しました。「現在、東大生態調和農学機構によって"東大マルシェ"が構想されています。これは農産物の販売を通して、環境保全型農業や地域を元気にする農業の価値を考えるための実験直売所。地方の野菜について消費者アンケートをとり、データ分析をする機能も考えられています」と、江戸東京伝統野菜をはじめとした国内外の在来作物の生産者、消糞者、研究者が交流していく取り組みも紹介。参加者の興味をひきました。
イベントの第二部では、山形在来野菜と、一般に流通している交配種であるF1野菜の食べ比べが行われました。「勘次郎きゅうり」「だだちゃ豆」「甚五右衛門芋」「萬吉ナス」の四種類を試食した参加者は「勘次郎きゅうりは噛むほど味が長持ちする」「萬吉ナスは食感が滑らかで瑞々しい」と、その違いに驚いている様子。その後は、最上赤にんにくのバーニヤカウダソース、あけびと梨のエスカベッシュ、萬吉なすの豆乳グラタンなど、山形の在来野菜を使用した料理を堪能。それぞれに在来作物の魅力を感じた1日となりました。
渡辺監督は今回のイベントについて、「東京の人、若い人たちが集まって食べ物について真剣に向かい合い、問題意識を持つきっかけになればいいですね。山形から直接別の地域につながるよりも、東京を経由して別の地域へとつながっていくことが多いので、こういった場を共有して映像作家としても活動領域を広げていきたいです」と、想いを語りました。
よみがえりのレシピ:http://y-recipe.net/
六本木農園:http://roppongi-nouen.jp/