g*g Vol.25 SUMMER 2013

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山崎亮氏(コミュニティデザイン学科教授就任予定)と
小山薫堂教授(企画構想学科教授)が
コトのデザインについて語り合いました。

コミュニティデザイン学科と企画構想学科。コトのデザインのプロがリードする両学科。

山崎 コミュニティデザインは、地域住民の主体性をどう引き出していくかが最大の主眼となります。住民が動きだし、コミュニティをつくって何か新しいことを始める、というところまで持っていくのが僕たちの仕事。僕たちが抜けた時に活動が止まってしまわないように、住民の方の話を聞きながら進めます。例えば、人口減少と高齢化に悩む島根県の海士町では、住民との対話のきっかけとなるプロジェクトを、〈studio-L〉がサポートしながら住民参加で策定しました。こちらがアイデアを出してしまうと住民がお客さんになってしまうので、そうならないように。現在は東北復興におけるコミュニティデザインについての問い合わせも増えてきているので、学生と教員で現場に入り実地で学んでいこうと思っています。復興のプロセスにおいて、住民みんなで話し合いながら考えていこうというコミュニティデザインの需要性は増していますし、我々にとっても学びが多いフィールドになります。

小山 企画を構想する上で僕が一番の理想だと思うのは、実は山崎さんがやられているようなこと。僕の会社で熊本県の仕事『くまモン』を請けた時に、最初に「僕は何もしませんよ」と言ったんです。ただ皆さんが動くための種は差し上げます、と。くまモンも最初は僕が作ったものの、その後の展開は皆さんが考え、あそこまで人気がでました。

山崎 へえ。もっとこう提案をバーンと立ち上げてグイグイ進めていくイメージを持っていました。

小山 企画が困っていて考えられるスタッフもいない場合は、そういう時もあります。でも基本的には種を渡して育ててもらうような考え方です。今、江崎グリコのコンサルタントをしていますが、やる気ある社員を集めて彼らをリードしながら、1個の商品をアウトプットするまでをナビゲートしています。企画構想学科では企画の考え方は教えていますが、ナビゲートの部分でコミュニティデザイン学科と一緒にやったら最高なんじゃないかな、と思いますね。

山崎 そのプロジェクトに近いことを、我々は企業ではなく行政に関わってやっていますよ。例えば、広島県福山市の市役所の中でチームを作り、13人のやる気ある職員がファシリテートやワークショップの勉強をし、市民60人を集めてワークショップをやります。通常だったら我々がする役割を、この13人が市民の中に入っていってやっていく。どういう風にゴールしたいのかを引き出し、やり方を練習しながらチームを作っていくという、間接的な関わり方をしています。

小山 うーん、うちの学科の学生をそこに入れて学ばせたい(笑)。いかにして両学科が連携をとりながら、魅力溢れるプロジェクトを進めていくかが大事なのかな、という気がしてきました。

左:山崎亮氏/ランドスケープデザイナー、コミュニティデザイナー、株式会社studio-L代表。京都造形芸術大学芸術学部空間演出デザイン学科長。2014年4月に東北芸術工科大学デザイン工学部コミュニティデザイン学科教授(学科長)に就任予定。 右:小山薫堂教授/放送作家、(株)オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役社長、N35inc代表。東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科教授(学科長)。

地域社会の課題や要求に学生が主体的になってアイデアを提案する企画構想学科。
地域の方の意見を上手く引き出して、コトを一緒にデザインするコミュニティデザイン学科。

小山 企画構想学科の場合は、私たちが先に(アイデアの)種を作り、相手に「育ててください」と渡すことが多いです。そこが両学科の違いだと言えるでしょうね。

山崎:コミュニティデザインの場合は地域の方が主役なので、先に種を持たず、何を植えたらいいかな、これかな、と、みんなの種を集めて決めることが多いです。しかし、どのアイデアがおもしろいか判断するために、地域に入る時にはスタッフに100案くらいアイデアを持っていけと言っています。住民の方の意見に刺激されて、そのうちの3つか4つのアイデアを合わせ、組み立てて説明します。種を自分の懐から出して見せるか、見せないかの違いがあるんですね。

くまモンに代表される、キャラクターを使った地域おこしの本質。
地域の人が共通して愛するできるものをつくる。

山崎 僕らは地域に入り込んで、そこに住む人たちの多様な意見をずっと聞いていきますから、どうしても突き抜ける力を持ったアイデアには到達しません。コミュニティデザインでは、みんなで話し合いながら考えていくことが重要なのでそれで構わないのですが、『くまモン』のようなアイデアがあったら素敵ですね。地域を元気にするには両方の要素があったらいいなと思います。「ゆるキャラ」と言われるキャラクターを使った地域おこしについては、どうお考えですか?

小山 僕は、みんながキャラクターを欲しがっているのではなく、県民みんなが共通して愛することができるものが欲しいのかな、と思っています。今はブーム的にキャラクターに注目が集まっていますが、地域にはそれ以外のいいところがたくさんあるはず。本当はそういうものを探していって欲しいなと思います。僕らが地域に行っても外からのことしかわからないけど、山崎さんのような方が地域に行かれて話を聞くと、どんどん見つかっていきそうですね。

山崎 海士町でも、キャラクターを入れて親しみやすい広報誌を作ろうという動きがありました。しゃもじをカンカン鳴らしながら踊る「キンニャモニャ踊り」という踊りがあるので、しゃもじをキャラクター化しようかなと。でも、キャラクターを決めて押し出すのではなく、しゃもじの中に住民の方々の顔を描いて、住民を押し出すことにしました。2300人くらいの島なので、どのしゃもじが誰なのかわかるんですよ。それがゆるやかなプレッシャーになって、地域の取り組みに主体性と活力が増したようでした。

自分の人生を楽しく、誰かのしあわせを作ることに喜びを感じられる人に。
ふるさとに戻って、育ててもらった場所を元気にしていく問題意識を。

小山 実は、学生にこういう仕事に就いてほしい、というのはないんです。きっと山崎さんは、地域のためになる人間を育てたいと思ってらっしゃると思いますが。

山崎 そうですね。ふるさとを元気にしたい、と。

小山 そこがすごく明快。僕の場合は違っていて、自分の人生を楽しく生きられる人になってほしい、というのが一番なんですよ。"Your happiness is my happiness."だと思うので、誰かのしあわせを作ることに喜びを感じられるような人間になってほしい。人のしあわせの作り方は決してひとつではなくて、故郷に戻ってそこの人たちと楽しくやっていくことや、料理人になって美味しいごはんを食べさせることもそうです。企画構想学科では、人間力と精神論と、そして少しだけの発想するコツを教えられたらいいなと思っています。これはありとあらゆる職業に通じるのかなあ、と。

山崎 僕は、学生には育ててもらった場所を元気にしていくことに対する問題意識を持っていてほしいですね。各地域で「若い人がいれば…」という話を必ずされるので、うちの学科にきたら「4年間経ったら自分のふるさとに戻る」と、もう、誓約書を書かせちゃおうかと(笑)。

小山 あはははは!(爆笑)それはすごいですね。

山崎 若者がふるさとに戻っていかないと、〈studio-L〉の仕事がまた増えちゃうんですよ。

小山 それ、うちと全く逆ですね。先日、4年の女子学生が就職活動に行き詰まったと相談にきました。僕は、居る場所によって誰に出会うかが決まると思うので「きみ、どこに住みたいの?」と聞いたら、「湘南に住みたい」と(笑)。だったら、もう湘南に行けと。僕がやっている横浜のラジオ番組に彼女を呼んで公開就活やってやると言いました。湘南地区の方限定で、今から紹介する子を採用したい人!と募集するんです。

山崎 それはおもしろいなあ(笑)

小山 山崎さんは強くふるさとに帰って欲しいと思っているのにね(笑)

山崎 僕が今考えているのは、コミュニティデザイン学科で2年になったら、全員が個人事業主として起業する、ということ。コミュニティデザインをしようとして地域に入ると、話をする住民の方は個人事業主の方が多いんです。そこで対等な立場にいないと「どうせ会社からお給料もらってやっているんでしょう」と、一線を引かれてしまって熱意が伝わらなかったりします。だから、税金や収支をきちんと理解して事業を立ち上げ、本気で取り組み実績を作るという経験をしてもらう。卒業の時には廃業届けを出して企業に就職するか、そのままいくか、どっちかだと。そんな学科にしてもいいのかなと。

小山 就職率100%じゃないですか!

山崎 相当の覚悟が必要ですけどね(笑)。起業するなら、故郷のためになるコミュニティビジネスを自分たちで考え、それに必要なものを4年間かけて探っていきたいなと思っています。

コミュニティデザイン学科 URL:http://www.tuad.ac.jp/communitydesign/
企画構想学科 URL:http://www.tuad.ac.jp/projectdesign/

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