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2007-01-03

ヤマガタ蔵プロジェクトのゆくえ その6

蔵が持つ素材の力

司会
 山畑先生は風土と建築をテーマにした研究をされてきました。世界中の建物をご覧になってきた観点から、蔵プロジェクトはどんな意味を持っているのでしょう。また、建築デザイナーとしてスタジオを持っている竹内先生にとってはいかがですか。

山畑
 いろんな国の古い町を訪ねて、日本の町と最も違うなと感じるのは、素材の持つ力です。その素材で町全体の合意がなされているとでもいったらいいでしょうか。日本の町はインターナショナルな工業製品がいろいろ入ってきていますが、僕が興味を持つのは、地場の素材を使いながら、よく見ると新しいものも導入している建物なんです。
 山形におそらく唯一残された、素材に力のある建物が、蔵なんです。蔵は磨けば磨いただけの美しさが出る建物です。古いものだけだと閉塞的になりがちなので、そこに若い人の新しいアイディアや、蔵主さんの思い、地域の人たちの思いが込められると、蔵は確実に再生していくでしょう。

竹内
 よくヨーロッパでも観光客でごったがえしている町がありますよね。でも、健全な町の姿とはそうではなくて、地元の人がよく行くパン屋さんやギャラリーがあって、そこに観光客も行って楽しめる、そんなバランスのとれた町だと思います。 蔵プロがめざすのはそんな町づくりです。
 建築デザインとは、与条件に応じて創り上げるものだとすると、新しいものを作るときと古いものを改築するときとの考え方に大きな区別はないんです。大切なのは、与条件に沿って何が必要で、そのために何をしなくてはいけないか。だから新しい建築をデザインするのも古い蔵を改築するのも、私の中では連続した考えなんですよ。蔵プロジェクトで面白いのは、古いものをつかって新しい価値観を作ること。 記憶の蓄積は後から追いかけてできるものではないから、記憶が蓄積された蔵の持つ価値は非常に大きい。私は残せる蔵は残すべきだと思うけれども、保存運動をやっているつもりはないんです。
 蔵プロについてはもうひとつ、教員として関わることの面白さを実感しました。製図にはグラフィカルな能力を試されますが、蔵で人と相対して何かをしていくとなると、製図能力とはまったく異なる側面から学生の人格を見ることができる。この学生はこういう人なんだという新鮮な発見がありました。蔵プロの活動には、 相手とどうやって関係性を築き上げるか、いわゆる人間力がはっきり表れます。 外の方たちに育ててもらう部分が見て取れて、すごく興味深い。蔵プロに関わった経験は、 きっと将来どこかで役に立つでしょうね。


[オビハチで開催された蔵ネットジャズライブ]

司会
 では最後に、これからの蔵プロジェクトについてお聞かせください。

山畑
 願わくは、一般市民の方にもっと企画面で参加していただいて、芸工大単独ではなくて山形市の活動として広げていきたいですね。実際、当初は多くの市民の方々も参加していたんですよ。その運営方法は僕や竹内さんで考えていくことです。 具体的には「蔵座敷に泊まろう」という企画も考えています。蔵座敷は内部の造作に非常に手間が掛かっています。よい材質を使って、大工さんが技巧を凝らして作っている。ぜひこうした建築をみなさんに見てほしい。難しいかも知れないけれど、いつかは蔵座敷がネットワーク化されて市内に点在する民宿のようなものになるといいですね。

竹内
 山形には本当に素晴らしい蔵座敷がたくさん残っていますよ。今すぐ活用できなくても、蔵主さんが壊さずに持っていてくれさえすればいいんです。私たちがこんなに蔵、蔵というのは、蔵がおそらく二度と作られない建造物だからです。蔵主さんはよく「その貴重さはわかっているけれど、維持が大変だから、自分が悪役になって潰すんだ」とおっしゃる。それもわからないことはない。でも、それよりも蔵を持っていることによって派生する価値について考えていただけたらいいなと思います。
 蔵主さんあってのプロジェクトですから、蔵主さんが残そうという気になることが重要です。だから私からお願いしたいのは、たとえば蔵ツアーに参加した人がそこの蔵主さんに「いい蔵ですね」とか「こんな蔵があってうらやましい」とか、 とにかく蔵主さんが「わざわざ見に来てくれてありがとう」と喜んでくださるような言葉を一声かけてほしいということです。

司会
 保存活用というだけでなく、新しい価値を見出し、新しい使い方を提案しながら新しい場所づくりをしているという点で非常に興味深いお話でした。どうもありがとうございました。

・・・その7へつづく

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