山形市内でも、30年ぶりの豪雪になっている今年、月山のふもとの西川町はさぞかしの大雪かと思い、工藤農園さんの山ぶどうは大丈夫なのだろうかと心配になり、雪の西川町を訪れました。江戸時代に建てられたという工藤さんのお宅は、雪にすっぽり包まれている感じでした。
山ぶどうの棚は、今年、もう4回雪おろしをしたそうです。工藤健一さん(72歳)も、これほどの大雪はあまり記憶がないとのこと。さぞかし大変なご苦労されていることと思いましたが、にこにこと穏やかな表情で、何とも意外なことを語られました。高さが1m70?ほどある棚も埋まっているので、棚の上にサーカスのように乗って、長い雪へらで雪をつつく。すると、棚の網で中が空洞になっているので、つつくと、雪が一気にどさっと落ちる。それが何とも気持ちのいい快感。「雪は害を与えるけど、素直なものだ」と。山ぶどう自体も、平野では育たず、こういう気候でないととれない。だからたくましく生命力がある。ぶどうのつるはつるつるだけとも、山ぶどうのつるは、がさがさしていて雪がくっつきやすい。せん定(枝切り)のしかたも違う。また、自生の山ぶどうでは実も小さく収穫がほとんどわずかなので、やはり人の手で育ててあげなければならない。そんな話を、山ぶどうの原液をいただきながら聞きました。しかも、木によって味(すっぱさと甘さ)が違うのだそうです。
今回、山ぶどう原液「月山の宴」の箱の中には、箱の図案の紹介文とともに、ここ吉川地区の手づくり地図と、工藤さんの奥さん春子さんがつくられた、かわいい山ぶどう蔓の環が入っていました。かつて、雪国の農家では、冬は家の中でわらや山の素材を用いての生活用具づくりが当たり前に行なわれていました。各地のぶるさと民俗資料館にはそれらの生活品や道具が展示されています。山ぶどうというと、つる編みのバッグが数万円など高価な値段で売られているのを見ます。奥さんが見せてくれました。ところが、これは、自生のつるの皮をはいでつくるので、皮をはがれた山ぶどうは枯れてしまうのだそうです。これでは、何とも自然共生的なものづくりではありません。「工藤さんの山ぶどうのせん定した枝はどうしているのですか?」と尋ねると、リースなどに使う分は残しておいて、残りは、チップにして根元にまいているのだそうです。チップにして土にもどすのは、先月、山梨市の桃農家からも聞きました。せん定つるの活用手芸。その他の素材と組み合わせて、いろんな人が素材を持ち寄って集い、おしゃべりしながらものづくりできる場もあったらいいですよね、なども談議しました。山形市の元木公民館では「おしゃべり手芸の会」が毎月開かれていますが、そんな場が各地にできたら、人づき合いと助け合いとものづくりと人生の楽しみなどが育まれますね。家の中にこもって、雪だけでなく時間はたっぷりある方があちこちにいらっしゃるでしょうから。
山ぶどう棚を見に行くと、夏には棚の下から山ぶどうの葉を見上げて、葉の光と影のコントラストに見とれたことが思いおこされましたが、今は空中から山ぶどう棚を見下ろしている感じです。なるほど、この上に積もった雪をどさっと落とすことは、童心にかえったおもしろさがあるんだろうなあと、想像しました。「今度、山ぶどう棚の雪おろしする時は、先生もぜひしてみて」と誘われたので、その快感を味わってみたいものです。山ぶどうの里の雪の回廊ツアー、いかがですか? その日、それからまわったのは、トラヤワイナリー(もと酒造工場のワイン工場)→道の駅「銘水館」(地元婦人会の方々によるコミュニティ型食堂「いきいき食堂」も開く予定だそうです。近くの公民館にも宿泊できるそうですよ。)→軽部草履(寒河江市。大相撲の行事や時代劇などの草鞋もつくっています、若い人が履きたくなるものもつくっていきたいそうです)。
人のつながりづくりと、生産やものづくりにも関わって人生が広がるような旅、いかがですか?
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