あなたのまわりには、どんな偶然があるか、探してみてください。もしくは、あなたは、どれくらいの偶然によって、今いるのかを。
研究室に荷物をどやどや運んで、かたづけている時に、何という偶然がおこりました。研究室の窓側の壁面です。初めに部屋に用意されていたのは、机だけです。向こう角に、畳を横に一畳敷きました。畳は、自宅に敷いてあって、床張りにしたので使用しなくなったものを持ってきました。
その隣に、御茶箱を置きました(教材用の糸など入れています)。これは、30年前の学生時代にお茶屋から買ったものです。
その隣に、4月初めに卒業生が廃棄に出した大量の画材の中から一枚ひょいともらって敷きました。
その隣に、3月まで東京上野の部屋で使っていたカラーボックスを置いて、プリント資料などを入れました。
その隣に、20年前に壊した家で使っていた、大工さんにこしらえてもらったソファーの台部分を立てて、積ん読棚にしました。
すると、まったく計算したわけでなく、置いたところ、何と、ぴったりと治まってしまったのです!
そう言えば、研究室に自宅の書棚からも運んできた中に、思わぬスクラップブックを見つけました。
大学生(人文学部美学専攻)の時に、教育学部美術科の仲間と、夜、連日、談義をして、山形に総合的な芸術の場をつくる提案をしようと、芸術新潮などのバックナンバーなどをあさりながら、日本・世界の美術館を調べて、メモ書きしたものです。
20歳前後の若い時期は、「疾風怒涛時代」とかつて言われたように、何かに熱く燃えて、もがき・あがき(ギリシャ語でアゴン)試みようとすることができます。
あーあ、自分もそう言えば、そんなことしたっけなあ、となつかしく思い出しながら、ふと、この部屋の自分に、われに返ると、何と、総合美術コースという新たに開設された教員にまぜていただいています。
このスクラップブックの試みは、地下組織や秘密結社や子どもの秘密の基地遊びの続きのような試みだったので、まったく、履歴書や実績には出ていませんし、私も語ってもいませんでした。
これも、何と言う巡り合わせの偶然なのでしょうか。
こちらのほうは、
総合芸術空間を考える会 → インターデザインプロジェクト → 総合生活環境芸術創造集団「蒼」(壁画とニットプロジェクト) → セレンキッズ・プロジェクト → 駄菓子屋楽校・だがしや楽校 → …
と、活動が変容しながらも、その考えや心は蓄積されてきているのかもしれません。
あなたの偶然を探してみてください。
30年後のあたなは、今のあなたと、どんなつながりがあるでしょうか?
君の名は?
matsuda michio.
君の仕事は?
ん…
かつては、中学校の社会科の教師をしていました。
ここでの今の仕事は、社会化の教師…?
人は、生まれてからさまざまな人との体験などによって社会化がはかられます。
一人の教師がその人の社会化を担当するということはありえません。
私が担当する社会化は、
総合美術コースで学んでいるさまざまな学習課題を社会化する案内役(ガイド)・仲介者(メディエーター)・媒介者(ポリネーター)の担当です。
広くくくれば、芸術の社会化、専門学問の社会連携、という感じです。それは、学校教育とは並行して、社会教育を行なってきたことが専門となって、今回、芸術家の専門の先生方がいらっしゃる研究室の棟に、一人異色の社会教育専門の私が混ぜてもらいました。
ということで、本丸の仕事を始めています。
昨日は、朝日町のアサヒ技研さんが来訪されました。金属パネルに点描画のように穴をあけて図案をつくり、それを自在に曲げて、光を組み合わせたり、室内、屋外などさまざまに応用配置する空間アートの商品を出しています。アートパンチという名称です。
実物を持参いただき、芸術指導の岡田先生、花澤先生、そして、学生もいっしょに、その商品世界を知りながら、そこにアート、総合美術のどんなことがさらに生かすことができそうか、ちょっとだけアイデア談義しました。
今日は、中山町の穂積繊維さんが、カーペットを持参してこられました。
穂積繊維さんのカーペットの特徴は、ドリルで打ち込む方法です。金属での点描画がアサヒ技研さんなら、こちらは糸素材の点描画のようなものかもしれません。いろいろなモノづくりの生産の仕方を比較してみることで、素材と技術の根源的な比較も見えるかもしれません。
学生が課題制作をしているところに、ちょっとおじゃましてもらいました。一体、それが、相互にどのようなメリットがあるのか、その相互互恵関係性の中身が、私の専門研究内容の一つです。
もし、それが当事者に了解ならない場合は、どちらかが労働提供した場合は、お金を労働の対価で支払う貨幣経済関係になります。
では、その互恵関係性の中身は、どのようなことがありそうか、今日の穂積さんの場合で言えば、次のようなことが出てきます。
アトリエの入り口に、突如、テーブル一つで、穂積繊維さんのカーペット工場ブースが出現しました。完成商品だけでなく、素材の糸や、ゴミに出る資源なども並べられて、製作している社長さんご自身のライブの語りもある小空間になりました。その奥は、本来行なっている2年生のtenshonの課題の石膏どりです。
もちろん、社会で実際に生産されている方と実物のモノが、学生の学習現場に現われることは、学生にとっては、社会とのつながりを体感する大いなるメリットになります。
一方で、穂積繊維さんにとっては、商品PRの場になります(学生自身が今買うことがなくても、感動することがあれば、家族やだれかに語るクチコミ者になります)。
ここでは、実物と話に興味持った先生・学生が、一致して、のちほど、実際にフィールドワークで工場見学に行こう!となりました。
穂積さんでは、これからは、単に商品を売るだけでなく、工場にも来てもらってカーペットづくり体験のワークショップなども行なってみたい、と希望を持たれていましたので、こちらの学生が訪問することは、具体的なワークショップの企画実現や、興味ある学生が実習に行きたい、さらには、就職したい、といういい人材を雇用するチャンスも生まれるきっかけにもなっていくことが期待されます。
さらに、ここでは、穂積さんに学生が今制作している現場見学もしてもらいました。穂積さんにとっては、見学して知的好奇心を得ることができます。そこでは、「これ何?」ということを学生に語ってもらいました。見知らぬ社会人に、自分の制作をちゃんと語り伝えることは、学生にとっては、最も基本的なコミュニケーション学習になります。
3年生が、三角と四角の間の自分の立体造形を語りました。そのやりとりの中で、穂積さんは自分の工場でしている、「扇風機で乾かすと早いよ」という現場からのアドバイスもしてくれました。
さらにおまけが。穂積さんが行こうとすると、3年女子が穂積さんがぶらさげているカーペットの小さなホルダーケースに目をとめて、これいい、と。美大生だからか、女の子だからか、いずれにしても、消費者の視点での新商品開発のニーズをふとした応答で見つかることもあるかもしれません。それは、穂積さんにとってのメリットになります。
こんな風に、相互の関係性をこまやかに吟味してつかんでおけば、臨機応変の仲介役で、お互いにお金をかけずに相互互恵関係性をつくり出すことができます。
これが、私の社会関係性の専門の応用の一つです。
私は、これを仕事に、芸術の先生方とのチームプレイの中で、学生が社会で活躍していく人材になるよう努力していきたいと思います。
総合美術コースに自社製品紹介、参観大歓迎です。私が連携づくりを担当します。
松田道雄 matsuda.michio@aga.tuad.ac.jp