2010-09-11

早戸温泉石積み実習の報告【廣瀬俊介】

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学生有志20人と私、渡部講師、そして廣瀬研究室招聘講師であるデザイナー田賀陽介氏、煉瓦職人の高山登志彦氏からなるメンバーで、8月24日(火)から28日(土)にかけて奥会津は三島町の早戸温泉に滞在し、遊歩道のランドスケイプデザイン、施工を行ってきました。

きっかけは、昨秋の福島県の招きを受けて実施した只見川沿川景観調査でした。
その折、同温泉と早戸地区の方々が川べりに突き出た岬状の土地の上に通した遊歩道の素朴な美しさに惹かれ(第一期のデザインは柳津測量設計株式会社によります)、道のかたわらにいくつもの石があるのを見て、
「道を通すのに土を切ったところへ石を積んではどうでしょう」
と提案をしたところ、同県の方が即座に温泉組合の佐久間源一郎氏へ連絡を取り、学生ともども湯治場に泊めていただきながら石積みをすることが決まりました。

その後、春と梅雨の時季の二回踏査に出かけ、主に当地の自然と歴史的な土木工法を調べ、石や木杭などの材の量を確かめました。
また、学生有志は当初12名だったのが20名に増え、湯治場では部屋が足らず早戸地区の集会所を宿泊のためにお借りできることになりました。

食事は自炊で、これは学生が分担して行いました。
午前8から午後5時過ぎまで暑い中体を動かして働きながら、夜は夜で夕食の支度の他に翌日の朝食と昼食の準備をする……大変だったと思います。
但し、湯治場に滞在したわけですので毎日の疲れを温泉で癒すという贅沢もできたのですが……。

作業は、有償ボランティアとして実施しました。
私が「早戸温泉遊歩道石積擁壁工事業務」を地元から請け、講師への謝金とメンバーの交通費、宿泊費等にあてるという整理をし、田賀氏と高山氏を除き専門職として施工をする者がいないために作業の報酬はなく、しかし経費はすべて支出いただくことで、私たちと早戸に暮らす方々がともに利益を得られるようにと図りました。

結果は……学生の頑張りで、しっかりした石垣やそだ柵や暗渠ができました。

いろいろお世話をくださった地区の方々にも喜んでいただけているとのことです。
写真を少しだけご覧に入れましょう。

この写真は、私たちの施工前のもの。
土を切って道を通したとは、このような状態をいいます。
こちらが施工後。
石の重さを後ろと横にかけながらしっかりとかみ合わせる空石積みを、地元の石積み職人秦虎雄氏のご指導を受けながら行いました。

モルタルを使わないため石と石のすき間からよく水が吐け、崩れにくくなります。
石のすき間には植物が根を下ろし、小動物が身を潜めるようにもなります。
そして、道と周囲の風景はどう変わって見えるようになったでしょう?

写真奥の柵は間伐材を杭にして、杉の落枝を編み込んでつくったもの。田賀氏のご指導によります。

写真は昼食風景です。
自分たちで積んだ石垣に腰掛け、木立の中でおにぎりを頬張る……幸福なひとときでした。

遊歩道の長さは全体で400m弱、私たちが工事をした林間の部分が230mほどです。
石垣3ヶ所(長さがそれぞれ12m、7m、3m。高さは0.3〜1m程度)、そだ柵9ヶ所、暗渠(写真中央の雨を谷の下へ流す溝)1ヶ所を工事した結果、地形の変化と只見川の見え隠れや土地の植物を素直に気持ちよく生かした遊歩道第一期デザインの長所を発展できたのではないかと考えています。

当初は学生と石積みの勉強をしに早戸へ出かけたつもりが、遊歩道のランドスケイプデザインを一歩前へ進めることになってしまい、自分でも驚いています。

遊歩道のある一帯(写真右手の岬のように川に突き出た部分)は、屋形船「つるの湯丸」の上からも眺められます。
その上には大きな岩盤が見えますが(写真右上)、遊歩道の周囲にはかつてここから崩落した大きな岩がごろごろとあります。なお、来月15日には地区の方々への説明会開催と点検を兼ねて早戸を訪ねる予定です。
それから竣工後1年を迎える来夏まで、秋雨、冬の霜や雪、春の雪解け水、梅雨の雨などの影響を確かめに通うことになります。

今回の実習には3年生、4年生、研究生が参加し、男性が11名で女性は9名という構成でした。研究室別にはランドスケイプデザインを専攻する廣瀬、渡部研 究室に加えて、建築専攻の竹内、山畑研究室からも参加があり、さらに美術科テキスタイルコース 所属の学生も1名参加しています。

三島町、早戸地区の皆さんは集会所を開放し、歓迎会と慰労会を開いてくださるなど、本当にあたたかく接していただきました。できれば、今後も学生有志と当地を訪ねて、今回もうけた垣や柵の補修や杉間伐用作業路の新設と間伐、そして植生回復のお手伝いなどをしながら学ばせていただきたいと考えています。

こうした活動に興味のある学生は、ぜひ声をかけてください。
学年、性別、所属学科は問いません。
とにかく、楽しみながらいろいろなことが勉強できました。
この場を借りて、佐久間さんをはじめとする早戸の皆さん、そして三島町の齋藤茂樹町長に御礼申し上げます。有り難うございました。
また近々お目にかかります。

廣瀬俊介