2012-04-17
竹内昌義教授の『原発と建築家』出版に寄せて(廣瀬俊介)
福島第一原子力発電所の事故発生以来、それよりずっと前から原子力開発や発電所事故の危険を訴えてきた人々の報告や指摘が、今この国に生きる人々に少しずつ支持されはじめている。
これらの報告や指摘は、日々たくさんの情報が発信されるなかで埋もれてしまっているようなところがある。だから、みずからが遭遇してしまった危機の大きさや、それを乗りこえる方法を意識して探ろうとしていない人々の目にはふれにくい。
しかし幸いにも、数ある情報から確かな報告や指摘をより分け、その内容を理解しようと努めていくと、さまざまな専門領域で、私たちの国の未来に対する希望を捨てずに済むような知識、理論、技術を持つ人々がいることがわかってくる。
このような人々を訪ねて対話をしながら、竹内昌義教授自身が学び、エネルギー資源の持続的利用を中心において今後の日本再建のあり方を考えつつ書いたのが、この本『原発と建築家』だ。
教授は、本書のなかで元原子炉格納容器設計技術者、元福島県知事、再生可能エネルギーにかかわる技術者や政策研究者ら、さまざまな専門領域を背景とする人々と対話をしている。そして、彼らの知識、理論、技術は、「日本再生」というジグソーパズルをかたちづくる、ピースの一つ一つのように筆者には思える。
筆者はランドスケイプデザインに実地でたずさわってきている。このデザイン領域が目的とする持続可能な土地利用の実現のためには、土地の環境条件を成りたたせる地質、地形、気象、生態、民俗、生業、社会、経済等々を対象とした専門領域ごとに獲得されてきた(つまり大きな視野に立てば「分析」されてきた)知識、理論、技術が結びつく(「総合」する)必要がある。
だが、各々の専門領域についてはくわしい研究者、技術者らが、他の領域に関心を持つことは実際には少なく、自分自身が「分析」から「総合」へと知識、理論、技術のそれぞれを結びつける研究者、技術者になろうとしてきた。
竹内教授が本書の執筆を通して行ったことはそれに通じていると、私は受け止めている。脱原発とこれからのエネルギー資源利用・保持に関した知識、理論、技術を結びつけることへの着手と、危険なエネルギー資源を利用しなくとも済む建築を探究する必要性を、この領域に関係する専門家や学生を中心に広く訴えること……そう受け止められ、評価ができる。
教授は、当学科の三浦秀一准教授、馬場正尊准教授らと、断熱気密性能を高めての省エネルギー実証と再生可能エネルギー利用の普及を目的とした「山形エコハウス」を2010年に実現している。この前年には、エコハウスを設計するために行った基礎調査と考察の結果を共著『未来の住宅—カーボンニュートラルの教科書』にまとめてもいた。
これらの経験から得た知識と考えをもとに、原発事故発生後1年をかけてさらに知識と考えが積み上げられ鍛えられながら、本書は書かれた。教員が同僚の教員をこう評するのは少し変わって感じられるかも知れないが、「人間が本気になって何かに取り組めばここまで社会的意義のある、密度の濃い仕事ができる。そして成長できる。」のだと、私はこの本を読んで思った。ひるがえって、自分はこの1年何をしていただろうか、とも。
日本列島は、およそ1000年の周期で訪れる断層の活動期に入り、過去の例から推し量れば数十年もの間、大規模な地震や津波、火山の噴火ほかの天災に遭う可能性を想定すべき状況にあると考えられる。また、新たな活断層がいくつも見つかり、未知の規模の天災に見舞われる可能性も否めない。
私たちにできるのは、天災の危険をできる限り回避する努力と人災の可能性を断つことだ。そのためには、人災の発生源となる原子力発電を廃し、再生可能エネルギーを健全に扱う技術を確立、普及することが、まず求められる。
竹内教授はその実現に向けて行動し、その第一の成果を発表した。そして、それを建築家の本当の仕事と訴えている。ならば、ランドスケイプデザイナーである私の「本当の仕事」とはなんだろうか? あるいは、私は、本当の仕事をする建築家とどう組めるのだろうか。
たとえば、「再生可能エネルギー」の「資源」として、自然物の一つである木を思い浮かべると判りやすい。材木や薪や炭を得るために木々を伐ってもまた育つように保育することは、本来「持続可能な土地利用」に含まれる。ただし、持続可能な土地利用を目的とする……とはいいながら、少なくとも私は、これまでエネルギーについてはほとんど知識を持たないままランドスケイプデザインにたずさわってきた。
こう考えてみる。太陽光や風や波を受けて発電する施設の整備や、木質燃料を得る森林の管理に生態学の視点を加えなければ、生態系へ影響を及ぼして物質循環を損ね、水資源の確保や食料生産、ひいては木質燃料の再生に問題を生じさせる
だろう。それに対してランドスケイプデザイナーの側は、自然由来のエネルギー資源を再生可能にする利用・保持も支えられるように、生態学的土地利用技術の展開を急ぐ……。
私は、こんな風に『原発と建築家』を読みました。そして、自分がこれからの日本で、デザインによって何をしていくべきか明確にすることを助けられました。学生のみなさん、私たちはせっかく同じ一つの場所で学びあうのだから、ぜひこの本を読んでみてください。そのうえで、意見を交わしあいましょう。この本の著者は、私たちの身近にいます。
「日本再生」というジグソーパズルのピースを、一つ一つ探しだしていきましょう。そして、組みあわせていきましょう。私もその行動に参加します。