2009-04-14

平行定規

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山畑先生から相談された。2年生が、インクペンと平行定規(1万5千円)の両方を買うことができないので、インクペンとT型定規(4千円ぐらい)のセットでなんとかならないと聞いているという。なるほど。
そういうこともあるかもしれない。なぜなら、建築・環境デザイン学科は、全員が建築士になることを前提にしていないので、建築の仕事に就かないのであれば、なにもそんな高い買い物をする必要なんてないはずなのである。それは、それで、納得。いずれ、CADに移行するのだ。と思っていられるかもしれぬ。
ちなみに私は大学に入ったときに、あまりに嬉しくて、親にこれがなければ、建築家(士)になれぬとだだをこねて、20万くらいの6畳の部屋を占領するような代物(A1の平行定規でした。)をほしいと、親の細いすねをかじったのであった。あとから考えると、かたちからはいることが多い。でもね、かたちからはいって、その気になるのも必要なのだよ。もちろん、そのころはコンピュータなどという、すぐに古くなってしまう物もなかったから、それだけでよかった。そしてそれを買ったことで、自分の未来が開けたような気すらしたのである。もちろん、それを買ったからといってそんなことはなく、課題の締め切りに追われるつらい日々が待っていたのである。でも、そういう気分を味わうのはたいへん良いことだとも思う。
さて、では、建築家にとって平行定規とはどういうものか。それは簡単。それは料理人にとっての包丁。美容師にとってのはさみ。(プロユースは10万円もするはさみがあるらしい。)カメラマンにとってのカメラに等しい。よく切れる包丁をつかわない料理人の料理はまずい。きれないはさみでは、うまくカットはできない。借りたカメラをもっているカメラマンはどこにもいない。
いずれコンピュータを使うからといって、平行定規を買わないのもこれまたダメである。ここにあげた職業も含め、肉体的な鍛錬が必要なのだ。自分の体にしみ込んだ感覚が必要なのである。肉体的な鍛錬がなくては、建築家という職業にはつけない。私の知っている建築家はみな、手が動く。模型や図面やパースやスケッチなど。とにかく手を使うことがうまい。全部かどうかはさておき、何かに秀でている。体に叩き込んだスケール感はだれにもまねできない物だ。
なので、もし、建築家になりたいと思っている人で、平行定規を買うことを迷っている人がいたら、ぜひ、無理をしてでも、平行定規を買ってほしい。