2009-07-10

オフィスと環境の新しい関係

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これは昨年設計したオフィス、東京湾の運河沿いの倉庫を改造したものだ。
この場所をオフィスとして選んだのは、静岡を拠点に靴の製造及び輸入を行う「シードコーポレーション」の新ブランド「THE NATURAL SHOE STORE」。企業コンセプトは「身体に気持ちよく、環境にやさしい靴」。その思想と勝ちどきの水辺の空間はとてもマッチしているように思えたのだ。ファッションの中心からはるか離れた場所だったので、常識ではあり得ない立地。しかし社長は僕の意見を即座に理解してくれた。ここでは、いわゆるオフィスのような空間ではなく、圧倒的に居心地のいい、リビングルームのような風景をつくろうということになった。
巨大な倉庫をオフィス兼ストックとして使うにはさまざまな困難が伴う。まず空調が最大のネック。断熱もない巨大空間をまともに空調すると、とんでもない光熱費がかかる。そこで考えたのは、倉庫の中にガラスのキューブを置いて、その中だけを空調すること。もちろん、環境負荷の低い環境にしたい。無駄な空調は避けたかった。
4トントラックも出入りする幅6mの巨大なドアを開ければ、キューブの周りはほぼ屋外のような環境だ。だが床全面にフローリングを敷きつめ、裸足で歩かせることで、人は室内と認識する。内と外の中間領域をつくることで庭のようにも、巨大なリビングのようにも感じることができる。
ガラスキューブがゴロンと置かれ、そこを中心に、「水辺のテラス」や「半屋外のラウンジ」にデスクやミーティングテーブルが散在する。人々は、時に寝ころびながら、時に運河の風や陽を浴びながら仕事をすることができる。その空間はエコロジーやカンファタブルをコンセプトに掲げる企業の思想を体感させる表現媒体になっている。オフィスはメディアでもあるのだ。
そもそもオフィスって何だろう? そこは新しい発想や物事を生み出す場であり、僕たちが人生のかなりの時間を過ごす生活の場でもある。だとするならば、そこは心地良く、創造性に溢れていなければならない。
かつては、なんとなくデスクに座っていることが働く風景だったかもしれない。しかし、多様化する職種、流動化する勤務形態、コミュニケーションツールの進化、そして働くことの目的自体の変化……。それらは働き方を決定的に変化させている。働き方が変われば、その環境も変わるはず。しかしオフィスはずっと四角い単調な箱のままであり続けていた。この勝ちどきのオフィスは、そんな問題意識に対する、ある一つの解答のようなものだ。